EYASUKOの草取り日記

2007/04/01(日)12:06

佐伯時代劇の魅力

読書(12)

 祥伝社文庫「密命」シリーズを皮切りに、つぎつぎ文庫書下ろしを物する佐伯泰英氏であるが、その作品の魅力とは、豪快な殺陣シーンに加えて、市井の生活が細かく描写されているところではないかと思う。 主人公のほとんどが浪人暮らしをしているわけであるが、その煮炊きの様子も、部屋のどこに水場があり、かまどがあるか等手に取るように描写されている。また、一人暮らしの二度の食事は、長屋の人々との交流で時に菜を恵んでもらうことになるのだが、その必然性も細かく描かれている。 また、先にも書いたのだが、主人公の日々の生計の立て方も、心憎い工夫がなされていて、物語に存在感をもたらしている。 例えば、「密命」シリーズでは、主人公の勤め先は火事場の片付け業であり、「火事とけんかは江戸の華」といわれた世相を写し取っているし、また町火消しを考案した大岡越前守と知り合う複線にもなっている。 「酔いどれ小籐次」シリーズでは、主人公は父祖伝来の刀研ぎのワザを市井の包丁や刃物研ぎを40文で請け負う仕事をしているが、これが大手の紙問屋での仕事に繋がり、その後の物語の展開に大きく発展していく。 「居眠り磐音」シリーズも、主人公の剣の冴えを鰻裂きに応用し、無理なく一介の浪人者が暮らしを立てていくことができるように設定すると共に、一日百文という手間賃は、少し足りないので、併せ用心棒の仕事を請け負うことにより、両替商今津屋との繋がりができ、経済の面からの江戸中期の世相・問題点が浮き彫りにされていく。 このように、ただの剣戟小説ではなく、生き生きとした生身の人間の世界を構築していく仕掛けがちりばめられていることが、物語世界に奥行きを与え、かつシリーズ化が容易となる魅力を作り出しているように思われる。 新たな展開が予想される「居眠り磐音」シリーズ第22巻が早くでないか、切望している。

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