星野仙一HP 優勝の日のコラム

おれは泣かんよ、泣かん。ただこれだけもだえ苦しんで、きょうも1点差でどうなるかわからんっていう試合で最後に、赤星がライト前にサヨナラヒットを打った時は、一瞬、胸がつまった。マジック2から前に進まない。腹の中は煮えくり返っていたけれど、優勝目前にして選手たちも普段の自分を忘れている状態だからただ耐えるのみやった。しかし最後の最後、あの満塁で赤星にようやく“決定の一本”が出た。
 バッターボックスに行く前、赤星に「野手はみんな前にきとる。頭を越したらヒットなんやから思いきっていけ」っていったんだけれど、まさにその通りになって「夢」がかなった。この「夢」は選手たちと全国のタイガースファンの夢やった。じりじり、じりじり、いらいら、いらいらしながら待っとったあの瞬間、そりゃあつらかったから胸にこみあげてくるんだよ。しかし、年の功で泣かんでよかったわ、ホント。
 6月頃から怖かった。7月、8月は去年のことも思い出して、もしこれで状況が一変―流れが変わって優勝を逃すようなことがあったらと思うと余計怖くなったりした。しかしこの2年間、今年も私に色々いわれながら、最後の最後まで不安と緊張感にふるえながら、選手たちが本当によくやってくれた。もだえ苦しみながら結局、甲子園に戻っての胴上げだけれど、タイガースらしくて今はこれでよかったんだとしみじみ思っている。
 ペナントを掲げて場内一周といっても経験者がいないんだから、広沢がいろいろ指示を出しとった。18年ぶりといっても選手にとっては初めてのことだからまごまごしとったけれど、そんな姿を見ていると本当に幸せだった。胴上げは数えてくれていた人がいて7回だったらしいけれど、あの時は“もう夢ん中”で頭の中は真っ白。空に向かって、そう、ただ宙を飛んでたわ……。みなさん、本当にありがとう。

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