阪神は耐えることを教えてくれる

阪神タイガースに新たな記念日が刻まれた。九月十五日。十八年ぶりのリーグ優勝だ。ようやった。ぶっちぎりやで。これが泣かずにいられるか。大阪で、神戸で、「六甲おろし」が響き渡った。この十七年間で最下位十回。打てず、守れず。「ダメ虎」と揶揄(やゆ)され、沈滞する関西の代表的存在だったタイガース。今年は違った。文字通り「猛虎」の戦いぶりだった。耐えて忍んで、苦しみの向こうに光が差す。阪神タイガース。熱いドラマをありがとう。(大原篤也)

 ゲーム開始。高まる期待感。赤星選手のサヨナラヒットに五万三千人が爆発した。

 あとはヤクルトの試合次第。優勝決定まで、待つこと二時間。猛虎を愛する人はいつも待つ。前回の優勝から十八年、その前は二十一年。私設応援団の男性が言った。「悪い女に引っかかったようなもんや」

 その瞬間、スタンドが揺れた。ほんまに優勝した。「生きててよかった」。六甲おろしで沸く中で、初老の男性がむせび泣いた。「嫁はんより長い付き合い。ずっと苦楽をともにしてきた」。言葉が続かない。

 傍らで、居酒屋の女主人の言葉を思い出した。「阪神は耐えることを教えてくれる。勝ち続けてたら、人間わがままになる。他人の気持ちが分からんようになる」

 「ありがとう、本当にありがとう」。星野監督の叫びが、球場に響き渡った。

 ナインの胴上げを見守ったファン歴五十年以上という伊丹市の男性が言った。「タイガースはわが人生。山あり、谷あり。こうやっていい思いも味わえる。あしたからがんばれる」

 球場の外で、一人缶ビールをかぶる男性がいた。「警備の仕事を休んできた。せっかく見つけた仕事やけど、胴上げ見れたし、辞めさせられても本望や」

 神戸・三宮。明け方まで、見知らぬファン同士が握手を繰り返した。「おめでとう」「ありがとう」

 ほろ酔い気分の五十代の男性がほえた。「もうファンやめたろうと思ったころに優勝しよる。これじゃあ、酒とタバコと一緒でいつまでもやめられへん」。とことんハラハラさせられ、思い出したように感動を与えてくれる。それが阪神タイガースだ。

 大阪・道頓堀。六十一歳の男性は「こんな暗い時代、阪神の優勝しか喜ぶことないわ。神様と星野監督がくれた贈り物や」

 西宮市の居酒屋「虎」。午前二時まで、酒を振る舞った。店主で私設応援団常任理事の太平洋一郎さん。勝利の美酒に酔った。

 「長い低迷やった。私にとってタイガースは、苦しいときもそばにいてくれる家族のようなものです」




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