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極上生徒街- declinare-

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矩継 琴葉

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2009.12.29
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カテゴリ:小説

 エリとミシェルは図書館を出るとマリーの元へは向かわなかった。
 ミシェルが言うには、エヴァが付き添うからということだ。できれば自分もと思ったエリだったがミシェルに止められた。幸いにも進行が遅い毒であり、死には至らないため、重く心配する必要はないらしい。
 それでも時間が経ちすぎると昏睡状態から目覚めない危険性もあるらしい。さらに切っ掛けは自分にあるだけに落ち着けるはずもなかった。今すぐにでもビブニモ草を見つけに行きたいという気持ちに駆られた。
 ところがミシェルが向かったのは城の中にある自室だった。そこは仕事部屋というよりはアンナの部屋と雰囲気が似ていて、生活臭がする普通の部屋という印象だ。

「ベッド使っていい……私はソファーでねる……」

 ミシェルはぐったりと固そうなソファーに横になった。頭を肘掛けの上に乗せ、背もたれの方に顔を向け目を閉じた。

「ちょ、ちょっと待ってよ! 寝るって、大変なときにふざけないでよ!」

 当然、怒らずにはいられなかった。進行が遅いとはいえ、夜のとばりが下りたといえ、マリーが毒で昏睡状態にあるというのに冷静に寝るという単語が出てきたことで火がついた。 

「……ふざけていない……みんな、夜は眠らないといけない……」

「そ、それは、当たり前だけど――」

「夜は魔物が活発に動く……だからどちらにしても行けない……」

 そう言われてエリは言葉に詰まってしまった。納得したわけではないが、暴走したモッフルを見ていることで魔物の怖さは知っている。その魔物が活発に動いているということでは躊躇わずにはいられない。しかしマリーの回復を急ぐ気持ちは変らない。一国でも早く行きたい気持ちはある。それでも魔物怖さを体感したことが壁となってしまった。

「……朝になれば……魔物は巣に帰る……だから早く寝て……日が昇ると同時に出かける」

「分った」エリは渋さを出しながら「その代り、朝一で行こう! マリーちゃんを早く助けなきゃ!」

 うん、とミシェルはエリに背を向けたまま返事をした。
 エリは収まらない不安を堪えながらベッドの上に横になった。目が冴え眠れないと思ったが、横になった途端今日一日の疲れが出て眠気に襲われた。こんな時に、と思いながらもエリは微睡んでいった。

 

 

 

『私は悪いことをしたの。だから許して』

 ある日、母はいなくなった。
 今まで見ていた姿が幻だったかのように。

『お母さん! 待ってよ! お母さん! 行かないで!』

 必死に呼んでも届かない。 
 泣き続けても帰ってくることはなかった。

『お母さんは死んだんだ……』

 そして聞かされたのは、母の死だった。

 

 

 

 

 エリはベッドから飛び起きた。ランプの明かりは消え、辺りは闇に包まれていた。ソファーで横になっているミシェルの寝息が小さく聞こえている。

「またお母さんの夢だ……。どうして……もう10年以上見てなかったのに、ここに来てから2回目……どうし……」

 突然部屋が黄色く発光した。光の発生源はミシェルだった。
 エリはアルマか何かと思ったが寝息が聞こえている。杖はソファーに立てかけてあるが反応を示してはいない。つまり魔法を発動出せているわけではない。
 黄色い光は徐々に強さを増し、黄色い球体が飛び出した。

「魂!? 魂が抜け出してる!!!」

 慌ててエリはミシェルに駆け寄り身体を揺する。だがミシェルは気持ちよさそうに寝ていて全く起きる気配はない。それでも必死に起こそうと揺するが、死んだように眠っていて起きない。

「ちょっとミシェル! ミシェルってば!?」

 三度起こそうとしたとき、エリは自分の身体が光っていることに気がついた。
 ミシェルとは色が違う。というより、ただの光。そしてミシェルと同じように光の球体が飛び出した。

「!!」

 魂が抜けたと思ったエリは身を守るように両手を身体の前で交差させた。
 ところが何も起きなかった。

「え? どういうこと?!」

 訳が分らず、身体から出た光の球体に手を伸ばした。すると手は球体を通り抜け触れることは出来なかった。
 光はしばらくの間、出てきた本人の前で風船のように浮き続けた。
 そして突然球体は何かに引き寄せられるかのように外へ飛び出した。
 エリは慌てて球体を追い、窓から外を見た。

「ひ、光の球体が沢山集まってる!!」


 ソルスィエの首都中心部である世界樹に様々な色の球体が集まっている。LEDの様な小さなものから、風船のような大きさのものまである。鮮やかな色がまるで木の実のように世界樹を彩っている。
 エリが球体に見とれている間にも次々と集まり、世界樹の梢を全て覆い尽くすと一瞬にして球体は消えてしまった。
 この世界に来て何度も不思議と思うことがあり、そのたびに驚いてきた。今、眼前で広げられた光景にも同じだった。
 

「ん~……どうしたの……」

 あたふたと窓際で動き回るエリの音で、ミシェルはようやく目を覚ました。
 ミシェルが起きたことに気がついたエリは必死に状況を説明する。

「た、魂……じゃなかった光の塊が身体から出て、外に出たと思ったら、世界樹に集まって、そしたら消えて!」

 目撃したことを正確に伝えようという焦りから下手くそな喋りになってしまった。
 それでもミシェルには伝わったようで、

「あ……それは……ソルスィエ……」

  ミシェルは答えかけたところで再び睡魔に襲われ、倒れ込むようにベッドに横になった。
 変に中途半端なところで区切られてしまい、エリの探求心により火をつけてしまう。
 再び眠りに落ちてしまったミシェルを起こす為に、ミシェルの両肩を手で掴み、これでもかとお構いなしに上半身を激しく揺する。
 しかしミシェルは朝まで目を覚ますことはなかった。

 

 

 

 「ねむい~……」

 空が白みだした頃にエリは起こされた。
 あの後も必死にミシェルを起こそうと躍起になってみたのだが、爆睡して一向に目を覚ます気配はなく根負けした。ところが気がついてみればミシェルがソファーから移動してベッドの上で寝ている。ベッドを使って良いと言ったくせにと思いながら、起きそうもないところを必死に起こしても仕方がないので代りにソファーを使うことにした。
 ソファーは意外と柔らかく丁度いい硬さだった。これなら直ぐに寝られると思っていたのだが、目を閉じると夢のことやミシェルが言いかけたこと、さらにはマリーの容態が気になり始め、ほとんど一睡もしないまま朝を迎えてしまったのだ。

「ちゃんと……寝ないから」

 ミシェルに悪気はない。寝ぼけていた人間に罪はない。
 それでもエリを怒らせる効果は抜群だった。

「寝てないからって、私は別に起きていた訳じゃないんだけど! それに昨日の質問を聞かせてよ。答えが気になって眠れなかったのも理由なんだから」

 とは言ってみたもの、眠れなかった理由の一つであり、一概には言えない。

「昨日の……? 何……?」

 何のことを言っているのか分らない。そんな雰囲気でミシェルは答えた。

「何って、昨日の……」

 言いかけてエリは口を噤んだ。自分はハッキリ覚醒していたので答えられても、あの時のミシェルは寝ぼけていた。問いただしても欲しい答えは返ってきそうになかった。
 それでも次から次へとわき出す謎をこれ以上放っておけず、続きを口に出した。

「身体から光が現れて、世界樹に集まって消えたことだよ」

 ミシェルは少し考えるような素振りを見せ答えた。 

「ごめん……覚えてない」

「そ、そっか。じゃいいや」

 予想していた返答とは違い若干戸惑った。あの光は凄いもので、何か秘密があるとかで教えてくれないのではないかと思ったからだ。
 

「……それじゃ行こう」

 うん、と頷くとエリとミシェルは朝日が差し込み始めた部屋を後にした。






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最終更新日  2009.12.29 12:31:19



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