|
カテゴリ:小説
エリとミシェルは図書館を出るとマリーの元へは向かわなかった。 「ベッド使っていい……私はソファーでねる……」 ミシェルはぐったりと固そうなソファーに横になった。頭を肘掛けの上に乗せ、背もたれの方に顔を向け目を閉じた。 「ちょ、ちょっと待ってよ! 寝るって、大変なときにふざけないでよ!」 当然、怒らずにはいられなかった。進行が遅いとはいえ、夜のとばりが下りたといえ、マリーが毒で昏睡状態にあるというのに冷静に寝るという単語が出てきたことで火がついた。 「……ふざけていない……みんな、夜は眠らないといけない……」 「そ、それは、当たり前だけど――」 「夜は魔物が活発に動く……だからどちらにしても行けない……」 そう言われてエリは言葉に詰まってしまった。納得したわけではないが、暴走したモッフルを見ていることで魔物の怖さは知っている。その魔物が活発に動いているということでは躊躇わずにはいられない。しかしマリーの回復を急ぐ気持ちは変らない。一国でも早く行きたい気持ちはある。それでも魔物怖さを体感したことが壁となってしまった。 「……朝になれば……魔物は巣に帰る……だから早く寝て……日が昇ると同時に出かける」 「分った」エリは渋さを出しながら「その代り、朝一で行こう! マリーちゃんを早く助けなきゃ!」 うん、とミシェルはエリに背を向けたまま返事をした。
△
『私は悪いことをしたの。だから許して』 ある日、母はいなくなった。 『お母さん! 待ってよ! お母さん! 行かないで!』 必死に呼んでも届かない。 『お母さんは死んだんだ……』 そして聞かされたのは、母の死だった。
エリはベッドから飛び起きた。ランプの明かりは消え、辺りは闇に包まれていた。ソファーで横になっているミシェルの寝息が小さく聞こえている。 「またお母さんの夢だ……。どうして……もう10年以上見てなかったのに、ここに来てから2回目……どうし……」 突然部屋が黄色く発光した。光の発生源はミシェルだった。 「魂!? 魂が抜け出してる!!!」 慌ててエリはミシェルに駆け寄り身体を揺する。だがミシェルは気持ちよさそうに寝ていて全く起きる気配はない。それでも必死に起こそうと揺するが、死んだように眠っていて起きない。 「ちょっとミシェル! ミシェルってば!?」 三度起こそうとしたとき、エリは自分の身体が光っていることに気がついた。 「!!」 魂が抜けたと思ったエリは身を守るように両手を身体の前で交差させた。 「え? どういうこと?!」 訳が分らず、身体から出た光の球体に手を伸ばした。すると手は球体を通り抜け触れることは出来なかった。 「ひ、光の球体が沢山集まってる!!」
「ん~……どうしたの……」 あたふたと窓際で動き回るエリの音で、ミシェルはようやく目を覚ました。 「た、魂……じゃなかった光の塊が身体から出て、外に出たと思ったら、世界樹に集まって、そしたら消えて!」 目撃したことを正確に伝えようという焦りから下手くそな喋りになってしまった。 「あ……それは……ソルスィエ……」 ミシェルは答えかけたところで再び睡魔に襲われ、倒れ込むようにベッドに横になった。
★
「ねむい~……」 空が白みだした頃にエリは起こされた。 「ちゃんと……寝ないから」 ミシェルに悪気はない。寝ぼけていた人間に罪はない。 「寝てないからって、私は別に起きていた訳じゃないんだけど! それに昨日の質問を聞かせてよ。答えが気になって眠れなかったのも理由なんだから」 とは言ってみたもの、眠れなかった理由の一つであり、一概には言えない。 「昨日の……? 何……?」 何のことを言っているのか分らない。そんな雰囲気でミシェルは答えた。 「何って、昨日の……」 言いかけてエリは口を噤んだ。自分はハッキリ覚醒していたので答えられても、あの時のミシェルは寝ぼけていた。問いただしても欲しい答えは返ってきそうになかった。 「身体から光が現れて、世界樹に集まって消えたことだよ」 ミシェルは少し考えるような素振りを見せ答えた。 「ごめん……覚えてない」 「そ、そっか。じゃいいや」 予想していた返答とは違い若干戸惑った。あの光は凄いもので、何か秘密があるとかで教えてくれないのではないかと思ったからだ。 「……それじゃ行こう」 うん、と頷くとエリとミシェルは朝日が差し込み始めた部屋を後にした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.12.29 12:31:19
[小説] カテゴリの最新記事
|