刻のアルマ 第2話 Doute(疑念)<上>
どうも。第2話です。 タイトルも決まりました。「刻(とき)のアルマ」です。 どのような話なのかは、詳しくいえませんが、RPG風のストーリーです。久しぶりにガッツリ書きたかったので、意外と気合が入ってます(めんどくさくて推敲してないけどねw) ま、長くお付き合いくださいw で、第1話同様に、10000字に収まりませんでした( 結局、20000字を超えましたw 毎回、こんな感じになりそうです。覚悟してくださいw というわけで、<上>です。血の烙印編 プロローグ血の烙印編 第1話 Expulsion(追放)<前編>血の烙印編 第1話 Expulsion(追放)<後編> アジュール宮殿の中庭<悠久の園>、その中心に植えられた木の木陰で読書をするのがロイマ国《第1王子》フィリップの日課だった。日々、勉学や武術の鍛錬に励み、おまけに銀髪の髪が似合う美男子と来ている。ようやく16歳、成人して1年を迎えたばかりというのに、将来の王として大臣や政治家から太鼓判を貰っている。フィリップ自身も高い評価を受けていることを自覚し、さらなる励みとして受け入れていた。 だが、そんなフィリップも、戦争に出る年齢になったとはいえ、まだまだ子供。勉強を抜け出しては、気に入っている<天空の瞳>という、一人の戦士を描いた冒険小説を読み耽っている。この天空の瞳という小説は、ロイマ国、いや大陸一の作家・オランプの作品で、上流階級の人間はオランプの作品を必ず1冊は持っている。嗜みの一つということだ。 今日も静かな時間をすごそうと、中庭の木に背もたれて本を開いた。ところが、宮殿が俄かに騒がしくなり、本を読む気をなくした。 ……珍しいな? 東の内乱は優勢のはずだし……。 本を閉じ、立ち上がると、ズボンの埃を払い、回廊をバタバタと行きかう兵士一人を捕まえる。「おい、どうした?」「ハッ! フィリップ様!」兵士は立ち止まり、丁寧に敬礼した。(……めんどくさい) フィリップは、兵士が嫌いで仕方が無かった。敬礼や挨拶は,社交辞令のようなもので、必要だと、当然わかっている。しかし、声をかければいちいち敬礼や挨拶やら、いい加減嫌になってくる。まだ、うるさく泣いている鳥のほうが可愛く思えた。「実は、エヴールに送った魔女討伐隊が……」「(また、魔女討伐などと……。父上は、本当に《あの者》の言葉を信じているのか?)どうだったのだ?」 兵士は言葉を繋がない。躊躇うように、フィリップから目線をはずし、一瞬考え答えた。「全滅しました……」「全滅!? 馬鹿な!」「なかなか戻らぬので、調査隊を送ったところ、切り裂かれたようにバラバラになった死体を見つけました。しかし、作戦は無事に成功したようで、エヴールは――」「もういい。父上に、直に話をしたいと伝えに行け」「ハッ! 承知いたしました!」 兵士の後姿を見送ると、回廊にある絵画の間の隙間に背を持たれ、フィリップは考えごとを始めた。 どうにも納得がいかなかった。シュタイン王の進める魔女討伐への疑問と何かに脅えているような姿。そして、討伐隊の全滅。 エヴールに向かった討伐隊を率いていたのは、フィリップも面識のあるゲイズ少佐だ。ゲイズの戦果は、フィリップでも知っていた。そのゲイズが、あっさりと死ぬわけが無い。フィリップの疑念が一気に膨れ上がった。 ……父上は何をしようとしているのだ?▽ ヴァロワ卿の屋敷は、ウール地方の南東、エヴールより東に3里(約10キロ)の閑静な場所にある。伯爵というだけあり、屋敷は広大で、部屋数50を越える3階建ての本邸。屋敷の左側には、馬小屋があり10頭の馬を飼育している。逆側には、使用人達のための別邸があり、70人程の人間が住み込みで働いている。庭も広大で、多くの貴族を集めても、十分な広さでパーティーを開けるほどの広さを誇っている。 本邸の玄関から少し歩いた場所にある広間、普段は応接室となっているここに、ヴァロワ卿とエヴール公が話し合うために入った。扉は硬く締め切られ、外には警備の人間が立ち、物々しい雰囲気を放っていた。「お久しぶりです、ヴァロワ卿」帽子を取り、右手を左胸にあてエヴールが挨拶をした。「二人だけだ、そこまで畏まらなくてもいいだろ。エヴール」栗色の髪で、口髭を蓄えた、ほっそりとした男性が答える。彼がヴァロワ卿ことクロードである。「ハハハ……すまない、クロード。いつもの癖でな」 二人は椅子に腰を下ろした。 ヴァロワ卿ことクロードとエヴールは、初等科からの学友で、昔から交友があった。現在では、領主と市長という立場上、一線を置いて付き合っている。そのせいで、ついついエヴールは丁寧な挨拶をしてしまった。「……今回は残念だった」目線を下げてクロードが言った。「ふっ……そんな言葉で片付けられては困るな」「あ、いや……すまない」「別にお前を攻めているわけじゃないよ。魔女狩りという、ただの殺人行為で街を燃やされては、残念では済まない。……クロード、お前なら何か知っているんじゃないのか?」目に、執念のような怒りのような光を溜め、クロードを強く見つめた。 ようやく顔を上げ、クロードは強く見つめ返した。「知っていると思うが、東で内乱があった。あれの原因は……魔女狩りだ」「魔女狩り……! 他にもあったのか?!」「シュタイン王は狂っている!」クロードの手が怒りに震えだした。「無益としか思えない、魔女狩りをして、ヴァレンスの街も焼き払った! 納得のいくはずが無い。領主のタイラーは、人民軍を編成して内乱を起こした。元々、気性の荒いヤツだったが、完全に激怒している。もう誰にも止められない……」 クロードは、光が差し込む窓へ目を移した。 外で丁度、庭師がバラ園を整備しているところだった。切られた枝が、パタパタと地面に落ちていく。「……しかし、シュタイン王は急にどうなされたのだ? 民を殺すなどと、人かが変わられた」「それなのだが……数週間前、王が何者かと謁見したという話を人づてに聞いた」「謁見? 一体誰と?」エブールは、眉を寄せる。「分からない。それからだ、王がおかしくなれたのは。そもそも、魔女を狩る理由が分からない」「確かに、大陸北部には、魔法使いの国<ウィンダム>もあり、人と変わらないと証明もされている。彼らは決して好戦的ではなく、危害を及ぼす者たちでもない。王は何を考えているのだ……」 しばらくの沈黙。庭師の使うハサミの音だけが聞こえてくる。 「それとだ」先にクロードが口を開いた。「ソフィア……いや、ソフィアが殺害されたことと、ウィリアム君のことだ。現場を私も確認したが、アレは何だ?」 エヴールの背中に冷たい汗が噴出した。 竜巻が発生したあと、血まみれのハンスが現れた。そして、連れて行かれた北門で見てしまった。全身を真紅に染めたウィルと、鋭利な刃物のようなものでバラバラに切り裂かれた兵士たちの死体を。「分からない。……アレは、どう考えても人が成せるものではなかった」▽「ちょっと! どうしたのよ! あなたらしくもない! 元気出しなさいよ!」アンナが両手を腰に当て、頬を膨らませている。 ヴァロワ卿の屋敷、3階の来客用の寝室にウィルとアンナ、ハンスの3人がいた。 ウィルは、ベッドの上に座り、真っ直ぐに窓の外を見ている。馬小屋の屋根の向こうに、水平線が見えた。どこまでも、長閑な風景が広がっていた。 アンナは、この通りで、ハンスは入り口でその様子をただ見ていた。 アンナが怒っている理由は、ウィルは目覚めても何も語らず、岩戸のように重く口を閉ざしていた。「もういいだろ、アンナ」ハンスが諦めるように声をかける。「良くないわよ! 成人した男だったら、直ぐに立ち上がりなさいよ! もう!」納得いかないが、アンナは言葉を聞き入れ、プンスカプンスカと怒りながら部屋から出て行った。 「なぁ、ウィル? 何があったか、俺には、話せないのか?」 ハンスがウィルに聞く。既にアンナが散々聞いており、期待を持ってはいなかった。それに、言われなくても理解できた。親を殺されて、平気でいられるヤツのほうが普通ではない。ウィルの態度は、当然のことだった。「……」(やっぱりダメか……)ハンスは心でため息をついた。予想していた通りだった。「分かった。話す気になったら、話してくれ。だから、今はゆっくり休め。アンナにも来るなと伝えておくから」言い残し、ハンスは部屋を出て行った。ゆっくりと歩き、静かに扉を閉めている自分に気づき、自分まで少し悲しくなっていた。 ウィル一人だけになった部屋。まだウィルは窓の外を見つめたままだった。 地平線はただ平らで、何も無かった。 珍しく空は、雲ひとつ無い快晴。やはり何も無かった。「……母さんの死を直接見たわけじゃないから実感が無いんだ」ウィルは独り言を口にし始める。「悲しくない自分が怖いんだ」両手で顔を覆った。「何も覚えてない無いんだ。何が起こって、どうして血まみれになって、兵士の死体の中にいたのか……」 身震いが止まらなかった。<中へ続く>