旧上津江村は市町村合併によって、日田市上津江町となった。
その日田市より、「広報ひた」が月2回発行されているが、そのNo.963号の中の「日田の輝き人」のコーナーに、町内のM氏(88歳)が紹介されている。
上津江の特産農産物といえば、しいたけ、きゅうり、そしてわさびが代表格だ。
M氏は同町上野田地区の筑後川源流の沢で、いわゆる沢わさびを育てておられる。
20数年のベテランだが、成育環境の他、獣害や倒木、そしてお定まり後継者と問題はかかえつつも頑張っておられるのだ。

ファーマータナカは農業用水を沢水から取水しているハウスがあり、取水口の点検に山に分け入る時があるが、その時、沢わさびや林間わさびを見る機会もあり、又、料亭等で出されるその本物の沢わさびを、本当にたまにだが、お裾分けにあずかることがあるのは、山村に移り住んだ者として超ラッキーという他はない。
その時は、高級な(?)刺身をつまに、本わさびを味わうのである。
(「つま」の語源は、主となる料理の端やそばに置かれる事から、端(つま)や妻(つま)の説があり、妻の方の説は女性に大して相当失礼というより、逆に夫をつまと呼ぶべきが実態だろう。)
わさびはアブラナ科の多年草で、日本特産。学名は「Wasabiajaponica」。
標高400~500m位が敵地で、森林が多く気温の変化は穏やかで、夏直射日光を避け、水が豊富であって夏は冷たく、冬暖かいのを好み、水温は9 - 16℃が適温だ。
ただ水がきれいというだけでなく、特に鉄分や石灰質が多いと不適とされ、セリやフキが育つような水だと適正と判断できるそうだ。
沢わさびの根は大きいが、畑わさびの根は小さい。
これはわさびが根から放出する辛味成分のアリルイソチオシアネートの影響によるそうで、この物質は周辺の土壌を殺菌し、一般的な植物が生えないようにしているが、ワサビ自身もこの物質によって大きくなれないで、いわば自家中毒症状となる。
対して沢ワサビは、流水と透水性の良い土壌によってアリルイソチオシアネートが洗い流されるので、大きくなることが出来るという仕組みは植物界の深遠さを感じる。
ファーマータナカの子供の頃のわさびと言えば、粉わさびで、これを水で溶いてよくたてたものだ。
最近のチューブ入りわさび(練りわさび)はともかく、この粉わさびは本物のわさびを粉にしたものかと思っていたが、どちらも、主原料は和名を西洋わさびというホースラディッシュ(horseradish)といわれるもので、別名ワサビダイコン等とよばれ、いわゆる本わさびとは別物だ。
チューブ入りわさびは、この西洋わさびに大根等を混ぜ、緑色に着色したものだ。
もちろん本わさびの入ったものもあるが、原料に本わさびの量が50%以上の場合は「本わさび使用」、50%未満の場合は「本わさび入り」と表示されるものもあるということだ。
わさびの辛さは、細胞内にあるシニグリンがすりおろす過程で細胞にある酵素と反応することにより生成されるものであるが、シニグリンと酵素が、同じわさぴの中でも別々の紬胞に入っているため、細かくおろして混ぜ合わせることが必要だというのも興味深い。