これでもかという程の梅雨の大量の雨、やっと明けたかと思えば灼熱地獄。
それでも野鳥の声と共に訪れる津江の朝は幾分爽やかだ。
窓を開ければ、淡いピンクのグラデーションの可憐な花を着けたねむの木が見える。
サラダ菜のハウスへ向かう坂道の両脇にも、香りよく大きく育ったねむの木が何本も続く。

ねむの木の成長は早く、過酷な運命と作業に翻弄されるファーマータナカを横目に、穏やかな包容力で包み込みながら、自身は何事もなかったかのように、すくすくと育っているように見える。
しかし、そこにはやはり自然界の様々な不思議と摂理が脈々と息づいているのであった。
で、ねむの木について少し書いておこう。
まずは「合歓の木」の「合歓」の字だ。
エロい印象は、ファーマータナカ特有の下衆の勘ぐりではなかった。
「合歓」とは男女が共寝すること、喜びを共にすることを表す言葉で、葉がピッタリとくっつく様が、男女が共寝する姿に似るため、この文字が使われたということだ。
中国では一家和合、夫婦和合の象徴として植えられる習慣があり、又夫の機嫌の悪い時、酒にねむの木の花を入れると機嫌がよくなるという風習もあるという。
ねむの木は、夜になると小葉が閉じて垂れ下がり、眠っているように見えることからこう呼ばれ、 「ねむる(眠る)」が古くは「ねぶる」と第二音節が「ぶ」であったように「ネブノキ」「ネブリノキ」と呼ばれていたということだ。
それが中古末から中世にかけて第二音節が「む」に変化し、「ネムノキ」と呼ばれるようになったのだそうだ。
ネムノキの葉は、小さい葉が鳥の羽根状になって、それが集まって大きな葉となっている。
つまり、葉柄に続く軸から左右交互に枝が伸び、その枝に沿って左右に小葉が並ぶもので、、羽状複葉の葉が羽状に並んでいることになるので、これを二回羽状複葉という。
花は夕方開花し、(朝が見頃だ)夜は葉を閉じる。
そもそも、ねむの木はなぜ葉を夜に閉じるのだろうか?
夜に葉を閉じるのは就眠運動と呼ばれ、マメ科等の植物に多い。
科学的に言えば、葉全体が茎に付着する部分と小さな葉がそれぞれ付着する部分(葉柄)の基部がふくれていて、その細胞内圧力(膨圧)が光の強弱でふくらんだりしぼんだりすることのより葉が閉じたり開いたりするのだ。
では花はなぜ夕方から咲くのかといえば、夜に花を目立たせる必要があるからで、夜はアゲハチョウや蜂なども来るが、主にスズメガという蛾(ガ)が花粉を運んでくれる。
スズメガは、夜でもよく目立つ淡い色の花びらや、強くて甘い芳香に誘われて近づいてくる。
夜の蝶(?)や蛾がいるから夜の花も成立するというわけだ。

「この木なんの木、気になる気になるー♪」の、日立のCMでおなじみの歌に出てくるハワイ・オアフ島のモアナルア・ガーデンパークにある樹齢130年の大木も実は、熱帯に150種ほどが分布するねむの木の仲間の一つである、「アメリカ・ネムノキ(亜米利加合歓木)」なのであった。
こちらは、雨の降る前にも葉を閉じるそうで、レイン・ツリー(Rain Tree)と言われているそうだ。
その他、海外では傘を広げたような樹形になることから、パラソルツリーとも呼ばれているが、花に因んで、英名はシルク・ツリー(Silk tree)、シルク・フラワー(Silk flowers)というそうだ。
又、ねむの木は先駆性樹木(パイオニア・ツリー)とも呼ばれ、植物に生えていないような開放的な場所に、真っ先に進入する性質を持っており、荒地や崩壊地などに植えるのは利にかなっているのだそうだ。
道理で、上津江の痩せた山肌にもしっかりと根をおろしていたのだった。
そのたくましさに見習って、この大地に根をおろす事が果たして出来るのか、甚だ心もとないファーマータナカは眠ったように(?)今日もハウスに向かうのであった。