ファーマータナカのデイリーリポート

2011/01/15(土)15:53

環大平洋経済連携協定(TPP)

食料(14)

貿易の関税撤廃などを目指す、環大平洋経済連携協定(TPP)への早期参加を求める声が高まっている。 10月初頭から先日のアジア太平洋経済協力会議(APEC)にかけてTPP交渉への参加の是非を巡る議論が、思いつき発言の某首相のせいもあり、突如として国内で沸騰しているのだ。 政府はTPPに日本が参加した場合、実質国内総生産(GDP)を2.4~3.2兆円、伸び率で0.48~0.65%押し上げる効果があるとの試算を公表した。 試算は内閣府が行ったもので、100%自由化を前提とした。 一方、農林水産省もコメや小麦など主要19品目を対象に、全世界で直ちに関税を撤廃した場合の農産物生産への影響を独自に試算。 それによると、実質GDPを7.9兆円程度、1.6%押し下げ、食料自給率(供給熱量ベース)は40%から14%に低下するとしている。 農業界でも、日本農業の壊滅に向かうとして体勢では反対、一部に差別化農産物の輸出のチャンスという捉え方で推進派も存在する。 今回は、中野剛志氏(経済産業省から京都大学に出向)の判りやすい記事があったので、紹介しておこう。 <怪談!TPP環太平洋連携協定TPPって何?世界の孤児になるって本当なのか。 グローバル時代の中での国益を考える。アメリカの貿易黒字拡大の狙いとは・・・> (西部邁ゼミナール 2010年12月18日(土))という放送だ。 詳しくは内容を見ていただきたいが、中野氏の考え方を一言で言うと、 「アメリカの考え方は、アメリカに味方する国々の中に日本を巻き込んで、多数決でルールを決めていく。 日本の農業に関税を撤廃させる代わりに、関税を撤廃しますが、為替でドル安にするので、日本の工業製品の競争力は、減殺される。 「自由」という建前で、「関税自主権を取り上げる」という不平等条約の復活でしかない。」  つまり日本にとって「百害あって一利なし」と言っているのだった。 いくつか要点をピックアップしておくと、 1.まず、鎖国化開国かという論議があるが、日本は今 鎖国などしていない。 平均関税率でも世界的に見ると低い方で、農業にしったて関税率は低いほう。 農業の関税は日本は平均でいうとEUよりも低い。 TPPの参加国では日本は高めだが世界で見ると別に高いわけでない。 参考までに、下図をかかげておこう。 一部に高いものがあるが、それのみが強調されているきらいがあるのだ。(高いものの例) コンニャク 1706% コメ     778% 落花生  737% でんぷん 583% 小豆    403% バター   360% 砂糖    305% 大麦    256% 小麦    252% 脱脂粉乳 218% 2. TPPをやると輸出を伸ばせると、農業VS製造業の議論になっているが、中野氏の見立てではTPPに参加して製造業が拡大することはできないという。 というのは、日本が入ったとして10ヶ国のGDPの割合は、アメリカ67%、日本24%で、9割がアメリカと日本であり、オースラリア5%、他に7ヶ国の計4%であり、さらに、内需の割合で計算(日本企業が売れそうな場所)すると、アメリカ73%、日本 23%、オースラリア3.7%、他の7ヶ国の計0.1%で、アジアへ売れるのは、TPPの0.1%部分で、これはアジアの成長とか関係なく実質的に日米貿易だとしている。 3. なぜ、アメリカは関税を撤廃し自由貿易をしたがっているか? アメリカは慢性的な経常収支赤字が持続不可能であるとの認識の下で、対外不均衡を是正すべく、5年間で輸出を2倍にすると宣言し、輸出の拡大を進めようとしている。 対外不均衡の是正と、アメリカ国内の関税を引き下げるTPPの推進とは、一見矛盾するようにみえるがしかし、アメリカの貿易政策にとって重要なのは、もはや関税ではなく為替レートなのだという。 アメリカは、建前はともかく、本音ではドル安を志向する。 ドル安は、日本企業の競争力を奪うか、米国での現地生産比率を向上させる強力な手段だ。 例えば、ホンダの昨年の米国での現地生産比率は80%を超えている。(自動車業界では66%) 日本の輸出産業は、為替リスクの回避のためにすでに海外生産比率を高めており、現地生産が進むのであれば、仮に日本がTPPに参加し、米国に関税を全廃してもらったとしても、もはや関税撤廃と輸出競争力の強化とは何の関係もない。 TPP参加で輸出が増加するなどという試算は、取らぬたぬきの皮算用で終わるのだという。 一方で、ドル安でさらに安価になった輸入農作物は、関税の防波堤を失った日本の農業に壊滅的な打撃を与えるのは間違いないとする。 結局、「自由」という建前で、「関税自主権を取り上げる」という歴史の教科書に出てくる不平等条約の復活でしかないといっているのだった。 「自由」とは何かという根源的問題まで踏み込んだ議論を、TPPの是非についての判断をするに当たって、読者諸氏もぜひ参考にしてほしいと思う。

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