住友化学の「i-農力マガジン」というのを購読している。
自社の農薬の登録情報や適用拡大情報が主で、コマーシャル的要素が強いのだが、合わせて全国の病害虫発生予察情報というものが知らせられるので重宝している。
病害虫発生予察情報とは、水稲や果樹などの農産物に被害を与える、病害や害虫などの発生状況に関して、状況報告や注意喚起のために発表される情報で、各都道府県の病害虫防除所にあたる担当部局の長が、農業改良普及センターや農業協同組合等に対して発表するものだ。
都道府県によって異なるが、深刻さが低い順に予報、注意報、警報、特殊報の4種類があり、少なくとも1ヶ月に1回発表され、ほかに発生の予兆や報告などがあれば随時発表される。
そこに隣の熊本県で「トマト黄化病」という特殊報が発令されたとの情報があった。
特殊報ということは、最も深刻なレベルということになる。
(原子力事故で言うならまさかレベル7ではないだろうが・・・。)
長年トマト農家に打撃を与え続けている例の「トマト黄化葉巻病」と見紛って、心中穏やかではなくなっていたのだが、よくよく見ると、「トマト黄化病」で聞いたことのない病気のようだ。
新しい農薬が次々に開発される事と、新しい病害虫が次々に発生する事、又同じ病害虫でも、耐性や抵抗性が出来て農薬が効かない、あるいは効きにくくなる事はいたちごっこという現実がある。
(農学の分野では、害虫の場合は抵抗性といい、耐性とは言わない。病原菌の場合は主に耐性が使われるが、実際は抵抗性と両方の語を用いるようだ。)
新しい病害虫をいくつか拾い上げてみると、
メロン退緑黄化病(仮称)、キュウリ退緑黄化病(仮称)、キク茎えそ病、トマトすすかび病
、ヤシオオオサゾウムシ、スイカ果実汚斑細菌病、トルコギキョウ葉巻病(仮称)等
いくらでも発見され発生しているのがわかる。
ここで「トマト黄化病」の詳細をみておこう。
1 病害虫名 トマト黄化病
2 病原ウイルス トマトクロロシスウイルス Tomato chlorosis virus (ToCV)
3 発生作物 トマト
4 発生確認の経過
平成23年5月に熊本県内の平成22年産冬春作トマトほ場において、下位葉より黄化症状を呈する株が確認され、新規ウイルスによる病害が疑われた。
そこで、生産環境研究所および宇都宮大学で遺伝子診断を実施したところToCVが検出され、トマト黄化病であることが確認された。
5 国内の発生状況
本ウイルスによるトマト黄化病の国内での発生は、平成20年に栃木県、平成22年に群馬県で確認されており、本事例は3例目となる。
6 病徴
1) 発病の初期には、葉の一部の葉脈間が退緑黄化し、斑状の黄化葉となる。
2)症状が進展すると葉脈に沿った部分を残して葉全体が黄化し、えそ症状や葉巻症状が現れ、下位葉で比較的症状が重い傾向がある。
3)症状は生理障害(苦土欠乏症)に良く似ている。
4)発病株は、生育が抑制され収量が減少する傾向が見られる。
7 伝染方法
本ウイルスはクリニウイルス属のウイルスで、タバココナジラミ(バイオタイプBとバイオタイプQ)および、オンシツコナジラミが媒介(半永続伝搬:ウイルス媒介能力が数時間から数日間持続される)することが確認されている。
クリニウイルス属のウイルスでは、経卵伝染、汁液伝染、土壌伝染及び種子伝染しないことが知られている。
ここで最大の問題は、媒介害虫が、タバココナジラミバイオタイプQ(およびB)ということだ。
トマト農家の間では常識なのだが、このバイオタイプQというタバココナジラミは、曰く因縁つきの害虫で、農薬極強の虫といわれ、農薬の効かないウイルス病(トマト黄化葉巻病)を媒介する。
いわば「超」がつくほど防除困難の「虫+ウイルス」コンビなので、バイオタイプQとこの新たな「トマト黄化病」コンビは途方もなく脅威なのだ。
病害虫の防除や予防については、いくつか問題提起もあるので、次回以降に見ていきたいと思う。
今はただただ伝播侵入がないことを祈るばかりだ。