ビールを取り巻く状況
ファーマータナカは元プロのバーマンであった。ゆえにアルコールに関して当然造詣が深い。「好きこそものの上手なれ」とも言えるが、「下手の横好き」という言葉もある。世間の評価はさておき、自分自身では、単なる酒好きの赤ら顔のオッサンではなく、酒の歴史、文化、マナーと多岐にわたる知識教養薀蓄を併せ持ち、話し始めたら徹夜で、ヘベレケになり、呂律が回らなくなるまで飲み続けながら話せる程の人格者だと自己分析している。しかも、話に熱が入り情報量が多すぎるせいか、言った事を殆ど全く覚えていないという位細かい事は根に持たないさっぱりとした性格の持主なのだ。(反面飲み相手は相当根に持つらしい)食に携わる者として、そしてお酒(何でも持って来いのタイプだが、今回はビールの愛飲家として)の愛好家として、昨今の訳のわからんビールを取り巻く状況について、ここで読者のためにも(よけいなお世話だが)いったん整理をしておこうと思い立った次第だ。大前提として酒税法により、お酒は以下のように定義されている。【酒税法第2条第1項】 この法律において「酒類」とは、アルコール分1度以上の飲料(薄めてアルコール分1度以上の飲料とすることができるもの(アルコール分が90度以上のアルコールのうち、第7条第1項の規定による酒類の製造免許を受けた者が酒類の原料としてその免許を受けた製造場において製造するもの以外のものを除く。)又は溶解してアルコール分1度以上の飲料とすることができる粉末状のものを含む。)をいう。【酒税法2条第2項】酒類は、発泡性酒類、醸造酒類、蒸留酒類及び混成酒類の四種類に分類する。(参考:2006.5.01改正前は、「酒類は、清酒、合成清酒、しようちゆう、みりん、ビール、果実酒類、ウイスキー類、スピリッツ類、リキュール類及び雑酒の10種類に分類する。」とあって、雑酒の中に、発泡酒、粉末酒、その他の雑酒があった。次に本家のビールを再確認しておこう。ビールとは、【定義】 以下の酒類でアルコール分が20度未満のもの。 (1) 麦芽、ホップ、水を原料として発酵させたもの。 (2) 麦芽、ホップ、水、その他の政令で定める物品(注1)を原料として発酵させたもの。 (注1) 副原料:麦、米、とうもろこし、こうりやん、ばれいしよ、でんぷん、糖類、苦味料、着色料 副原料の合計重量が麦芽の重量の50%を超えないものに限る。【税率】 22万円/1キロリットルということで、ビールにも(1)だけでなく、(2)もある事をおさえておこう。因みにビールの麦芽使用率は2/3(67%)以上と規定されている。次にビール関連の分類をしておこう。最近第4のビールなどと言われるが、以下のようになっている。麦芽を使った本来のビールが「第1のビール」、麦芽の使用比率を低めたいわゆる発泡酒とよばれるものが「第2のビール」、エンドウ豆など麦芽以外の素材を原料にしたのが「第3のビール」、に対して、発泡酒に麦を原料とする蒸留酒を加えたものを「第4のビール」と呼ぶ。350ミリリットル缶の場合、ビールの酒税は現在77円、発泡酒の酒税は麦芽使用比率25%以上50%未満が62円、25%未満が47円、第3のビールが28円となっているが、第4のビールは蒸留酒を加えることにより酒税法では「混成酒類」の「リキュール」の一種に分類され、酒税は「第3のビール」と同じ28円となる。ついでに350ミリリットル缶の実勢価格をみておくと、、ビールは207円、発泡酒は152円、第3のビールが135円、第4のビールが135円から140円となっている。まとめると、酒税法上、ビールは発泡性酒類の中のビール(基本税率220,000円/KL)、発泡酒は発泡性酒類の中の発泡酒(特別税率(麦芽比率25%以上50%未満) 178,125円/KL(麦芽比率25%未満) 134,250円/KL)、第3のビールは発泡性酒類の中のその他の発泡性酒類(特別税率 80,000円/KL)、第4のビールは混成酒類の中の甘味果実酒及びリキュールの中のリーキュール類(特別税率9度未満 80,000円/KL)となる。改正前、酒税法上、発泡酒は雑酒の中の発泡酒、第3のビールは雑酒の中のその他の雑酒であった。しかし何故こんなにややっこしい話になってしまったのか?ことの発端は日本が、世界に冠たるビール高税率国家だということだ。高いビール税制がもたらした歪みが、旧大蔵省とビールメーカーとのいたちごっこを生み出したのだ。(もう1つの要因として90年代の円高で輸入ビールが急増し、この輸入ビールに対抗するために開発された背景もあるのだが)そんなこんなでなにしろ市場の半分以上がビールもどき、「まがいもの」になってしまったのだ。それから、「第4のビール」をリキュール類と分類呼称するわけだが、日本のリキュール類の定義は非常に広範囲でいいかげんというべきで、2000年代初頭の日本で発売されているリキュールにはEU諸国の基準を満たすものが7種だけしかないとする文献もあり、ファーマータナカは本来のリキュールに対して失礼なのではとも思うのだ。鳩山由紀夫首相は10月8日、政府税制調査会を開催して、所得税を柱とした税制の抜本見直しを諮問し、酒税については「アルコール度数に応じた課税に見直す方向」であるらしい。ビール課税が国際水準にまで下がり(他を上げるのではなく)、日本人が誰しも本当のビールだけが飲める日が来ることを期待する反面、現実には格差社会に翻弄され続けるファーマータナカは、このままだと第3、第4のビール毒牙にかかり、その餌食となって果ててしまうかと思うと、その情けなさを紛らわすために、ついつい発泡性酒類のその他の発泡酒や、混成酒類の中のリキュール類に手を染めてしまうのであった。ゴクリ!!