159383 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

 Japanisch Ahnenerbe

プロローグ

プロローグ



 「まあ、随分と………トーキョーの時に比べたら整ってる部屋だな」
「今までドイツ人たちが使っていた部屋です。おそらく施設で一番上等な部屋ですよ」
部屋に最低限残されている家具を見たあと、中年の米軍将校は窓から外の作業を眺めた。外で作業をしている人間は米軍だけではない。トラックから続々と降りてくる洗面器のような薄いヘルメットを被っているのはイギリス兵。仕事のついでに日本兵が残したものを懐に押し込んでいるのは、ドラム状のマガジンを挿入したサブマシンガンを持っている兵士、ソ連兵たちのようだった。
「どの国も欲望をむき出しにして………まあ我々もその一味だな。で、何か発見はあったのか?」
「は、接収できた機材はかなりあるんですが、書類はほとんど焼き捨てられてました。関係者の口がかなり重いんで文書の作成は時間がかかりそうです」
「出来る限り急がせろ。今回はどの国もスタートは同時だ。スターリンとの差は開かせておかねばならん。ドイツの技術者らの時は我々が一歩早く本国へ移送したがね」
 敗戦国の研究に連合国は熱心だった。技術大国のドイツはいうまでもなく、日本からもある程度の技術は持ち出されまた連合国に追随する技術は破壊された。当時かなりの進歩があった分子研究の機器が原爆開発の濡れ衣を着せられて研究者らの目の前で破壊されたのもこの頃だった。
 指揮官であるフォリンズ少佐はGHQ参謀第二部直轄の機関から派遣されてきた、いわゆる情報将校で、仕事の内容は、特に軍が深く関わる研究所の調査だった。今いるところは「科学研究所硯海分室」という、いささか地味というかひねりの無い名称の施設だ。トーキョーの職員の話では医学系の研究がメインだと言っていたが、時おり破裂音が聞こえたと言う住民の話も聞き込みで分かっており兵器関係ではないかという憶測が流れていた。が、翻訳された資料を読んでみると、臓器移植だとか眼球のレンズの人工化だとか、負傷した兵の治療に関するものと思われる資料ばかりでやっぱりトーキョーの話通りだとむりやり納得していた。一度この町に潜水艦が砲撃を加えたことがあり、その事件以降日本兵が何かを勘違いして海に発砲したのを聞き間違えたりしたのだろう、とも。
「それにしても、ジャップの技術屋は難解にモノを考えすぎているな。シンプルがベストじゃないか」


・・・


 警備の兵たちは武装解除を終えると、やることも無く宿舎で酒を飲み明かしていた。お役所特権で隠匿品は充分な量があり、一部のソ連兵が持ち逃げした以外は手つかずのままだった。
「んで、青酸カリが配られたときのこと覚えてるか」
「ああ、ありゃ誰が考えたんだ?」
「お隣の海軍の工研の連中らしいぞ」
「あの量は半端無かったぞー。ありゃ何百人分の致死量よ?」
「アレを一片に飲んでたら死に過ぎて極楽を飛び越してしまうのじゃないか」
「俺は薬屋の倅だからよく分かるぞ。朝、昼、晩に分けて飲むんだ」
「食前と食後どっちがいいんだ?」
全員が自虐的な冗談にゲラゲラと笑っている時に、一人の兵が窓を見て表情を変えた。
「おい、誰か窓の外通ったか?」
「んなはずないだろう。ここは二階だべ」


・・・


 夜になると、用意された部屋に三軍の代表者が集まることになっていた。まだ夏の暑さは抜けきれていなかったが、窓はぴったりと閉じられており、窓の外で鳴く虫と廊下の誰かの足音が時おり聞こえてくるだけの沈黙がしばらく部屋を支配していた。部屋の隅に待機しているそれぞれの軍の兵士らは無表情のまま、この部屋の利用者が現れるのを待っていた。
 最初に部屋にイギリス軍のグラント中佐が、やや遅れてフォリンズ少佐が入室して数分後にソ連軍のヴァシリー少佐がやって来た。
 ヴァしリー少佐は最後に入室したが、最初に口を開いた。内容は注目すべきことではなかったが。
「我が軍は大きな収穫は得られなかった」
うそをつけ!米情報将校は心中で毒づいた。そもそも誰もが情報の出し惜しみをしたがる状況でこんな無意味な集まりを提案したのも貴様らではないか……
 そこで、彼の思考は打ち切られた。窓際に立っていたソ連兵がカーテンをそっと開いて外を覗いていたのである。
「どうしたんだ………!」
できるだけ平静を保ってフォリンズは尋ねた。ソ連兵がヴァシリーに耳打ちした。ヴァシリーは英語で答えた。
「外の木が妙に揺れていたと言っている。なに、小動物か何かだろうと言ったが……」
「あ………」
ずっとだまっていたグラント中佐が口を開けて呻き声ともつかない声をあげた。視線の先には、窓を外から開けようとする小さい手があった。
「誰だ!」
警備兵がそれぞれの得物に手をかけた。とはいっても小さい部屋に集合しているので大きい銃は無い。ソ連兵が持っているPPSh41が唯一の大物だった。あとの人間は腰の拳銃に手をかけた。なぜか緊張は高くはならなかった。窓に触れている手があまりにも大人の印象とはかけ離れているからだろうか。ソ連兵が銃口でカーテンを押し上げた。
 その瞬間、風のような勢いで何かが部屋の中に転がり込んできた。人の形をしていたが、人外の存在である事は容易に判断できた。いや、判断できたのは最後に死んだ人間だけだったかもしれない。飛び込んできた勢いでフォリンズを、そして他の人間も残らず絶命させてしまったのだから。


 翌日、実験関係者が最後の聞き取りの際、終戦直後に事故が発生し、その時から”献体”×2が遁走していた事を明らかにした。
 ”献体”が何であったのかは、国会図書館の記録にも無い。







↓プロローグの後に書く「まえがき」↓
この小説の元ネタは中学生時代に書いてたノンストック小説です。二回ほど改筆したものの無理が出てくるので分かりづらいところにエピソードを加え「完全版」として載せます。ブレードランナーの完全版みたいな位置づけと考えてください。

小説部屋トップへ飛ぶ
文章の無断転載を禁じます。


© Rakuten Group, Inc.