ホテル物語

2012/04/22(日)21:58

雨風よ 若葉をよけてゆけ

読む愉しみ(11)

 「花の命は短くて苦しきことのみ多かりき」と言ったのは、林芙美子でしたが、ほんとうに・・・花の命は短くて・・・「満開です!」と、お知らせしたあとすぐに、市内の桜は、雨とともにおおかたの花を落としてしまいました。街のあちらこちらが桜色に染まって、ちょっと華やいだ気分になったのもつかの間。ほんとうに、はかないいのち。だから、だからお花見の時季は、落ち着かないのですよねえ。 関東のさくらは、すっかり終わってしまいましたが、 でも、桜前線北上中。東北や北海道のさくらは、これからですねえ今年の冬は特に雪が多かったので、春の訪れをどんなにか待ち焦がれていたことでしょう。北国にお住まいの皆さん、さあ、待ちに待った春ですよ~   ところで、さくら舞い散る季節になると、思い出す詩が何篇かあります。昨年のこの季節のブログ「生はいとしき蜃気楼」に書いた、茨木のり子の「さくら」もそうですが金子光晴が孫の若葉さんへの愛情を綴った、この詩もまた、さくらの花びらとともにふんわり舞いおりてきます。といっても、憶えているのはこの短いフレーズだけなのですが。うば車を押しながらそっと祈る。 雨風よ。若葉をよけてゆけ。 「雨風よ 若葉をよけてゆけ」だなんて・・・胸キュンですよねえ。。。小さな命をいつくしむ祖父のまなざし、愛しい孫のうば車を押しながら、目を細めて微笑む祖父のまなざしが、あたたかいですねえ  さて、では、この詩の全文をご紹介いたします。 詩集『若葉のうた』から さくらふぶき     金子光晴 夢でみた若葉は、さくらふぶきのなかに、花嫁の振り袖すがたで立っていたが顔をのぞくと、やっと立ちあがる、まだあかん坊のままの顔だ。 あたりはしづかで、もの哀しいことしの春のかはたれどきしあはせなんだねとたづねると、娘らしくその顔を袖にかくしてはにかんだ。 パパやママが若葉のしあはせを見送るさびしさの、その日はいつの先のこと、その日にあへるすべもない祖父は、うば車を押しながらそっと祈る。雨風よ。若葉をよけてゆけ。 うば車がしづかにうごくと、若葉は、まぶたを閉ぢる。そのまぶたのうへに、一もとのうこんざくらが、とめどもなしに散りかかる。   

続きを読む

このブログでよく読まれている記事

もっと見る

総合記事ランキング

もっと見る