ホテル物語

2013/04/17(水)21:11

どぎまぎしたっていいんだな

読む愉しみ(11)

 4月。新しい生活が始まる季節。ときどき真新しいスーツを身にまとった若い人たちを見かけます。希望や不安を胸に、社会人としての一歩を踏み出した人たちでしょう。 新入社員研修は終わったかな?職場には馴染んできたかな?がんばってるかな? 昔々私たちにもそんな時代がありましたよねえ。ビジネスマナーや慣れない敬語の練習。上司や先輩にいろいろ教えていただき、ドキドキオドオド緊張していた日々。 今では使い慣れている言葉ですが、「かしこまりました」がなかなか言えませんでした。 ホテルのオープン前にも、約1カ月みっちり研修しましたが、サービス業では、あたりまえに使われるこの「かしこまりました」すんなり自然に口から出るようになるまでには少し時間が必要でした。「かしこまりました」「承知いたしました」「うけたまわりました」「おそれいりますが」・・・学生時代は使わない言葉ですもんねえ。形式的な言葉に感じるかもしれませんが、さりとて、敬語は、文字通り「敬」語。 相手の気持ちを大事にする表現です。ビジネスにはなくてはならないので、 新社会人の皆さん、がんばってくださいねとはいえ、かく言う私、いい年をしているのに、いまだに、ときどきとっさに変な敬語を使ってしまって、どぎまぎすることもあるのですが・・・  というわけで、きょうは、皆さんに、茨木のり子の「汲む」という詩を紹介したいと思います。 今読んでも新鮮でこころに響く詩です。 「山本安英の花」というエッセイによると、この詩は、若い頃に会った「夕鶴」で有名な女優山本安英さんに言われた言葉をもとに書いた詩で、Y・Yは山本安英さんのイニシャルだそうです。そして、山本安英さんには、「教訓的にではなく、さりげなくまったくご自身のこととして話されるもののなかに、汲めどもつきない叡智があった」のだそうです。若い人にはとくに読んでいただきたいなあと思います。 無理しないで、あせらないで、あなたらしく、ね そして、若くはない私たちも、初心に帰って居住まいを正さなくっちゃ  汲む      -Y・Yに-     茨木のり子 大人になるというのはすれっからしになることだと思い込んでいた少女の頃 立居振舞の美しい発音の正確な素敵な女のひとと会いましたそのひとは私の背伸びを見すかしたようになにげない話に言いました初々しさが大切なの人に対しても世の中に対しても人を人とも思わなくなったとき堕落が始るのね  堕ちてゆくのを隠そうとしても  隠せなくなった人を何人も見ました 私はどきんとしそして深く悟りました おとなになってもどぎまぎしたっていいんだなぎこちない挨拶   醜く赤くなる失語症   なめらかでないしぐさ子どもの悪態にさえ傷ついてしまう頼りない生牡蠣のような感受性それらを鍛える必要は少しもなかったのだな年老いても咲きたての薔薇   柔らかく外にむかってひらかれるのこそ難しいあらゆる仕事すべてのいい仕事の核には震える弱いアンテナが隠されている きっと・・・・・わたしもかつてのあの人と同じくらいの年になりましたたちかえり今もときどきその意味をひっそり汲むことがあるのです    

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