龍を見た男
9篇からなる時代小説。主人公よりも脇役に魅力を感じる作品ばかり。(1)音吉(2)おてる(4)権三(7)万蔵(8)芳平(9)榊甚左衛門こうして列記してみると、ハンディキャップを背負っていたり、一筋縄ではいかないようなヒネくれた性格だったり、裏の道を進んできたり、と。そういう陽の当たらないようなタイプの人物がこの物語にピリッとしたアクセントに効いてます。ステーキにブラックペッパーやガーリックが必要なように。そして添え物としてポテトサラダなり、人参のソテーが出てくるように。味噌汁に出汁が必要なように。具材によって様々な味を楽しめるように。脇役が月並みな表現をすれば「個性あふれる人」だから、主人公らの物語の転がり方にのめり込んでしまう。(7)など、私自身は莫大な借金まみれにこそなったことはありませんが、読み進めていきながら、主人公新太郎が落ちぶれていく姿が「私自身のダメな時」とシンクロしてしまい、感情移入の度合いが高かった。結末で新太郎が採った選択を自分自身が採れるのか?その自信はない。そういった類の良心を問いかけてくる作品集のようにも感じる。偉人伝ではないから、結が必ずしも死で終わる必要もないし、その結末のボカシ方が心憎いまでに読み手の解釈に委ねている。作者藤沢周平自身も「この作品の結末はこうだ!」と決めてかかっているわけではなかったのだろう。この物語を読んでいる人とどのように物語が続いていくのか語らってみたいものである。気に入ったのは(1)、再生(2)、畏怖(4)、後暗さと機転(6)、幸福(7)、抜き差しならない状況での人間の矜持(1)帰って来た女(2)おつぎ(3)龍を見た男(4)逃走(5)弾む声(6)女下駄(7)遠い別れ(8)失踪(9)切腹