思えば遠くへ来た私

2007/03/20(火)03:53

転ける老人達

フランス(112)

夕方、息子を幼稚園に迎えに行った帰り いつもの道を歩いていると 前方に小さな人だかりが出来ていた。 もしかして、と思いながら近づくと 案のじょう、その人だかりの中心には 怪我をしたおばあさんが地面に座り込んでいた。 右手の甲には血が付いており まだ止まらない鼻血をハンカチで押さえながら 「何か血を止める物を薬屋に買いに行きたい」 と、取り巻きの一人のおじさんに言っている。 私達が近づいて行くうちに 見守っていた人たちも次々と減って行き 私がそのおばあさんの横を通り過ぎる時には そのおじさん一人になってしまった。 おじさんは、 「もうすぐ誰か来るから」 と去るに去れない様子。 私も何か手伝った方が良いかな、 なんて躊躇していると すぐ横にあったブティックのお姉さんが 商売用のでっかいティッシュのような物を持って来て 「救急車を呼んだから」 とおばあさんの血を拭う用意を始めた。 救急車が来るんなら平気だろうと 私が子供達を連れて歩き出してすぐに 呼ばれた救急車が到着。 息子が「おばあさん、血が出てたね」 なんてちょっと驚いていたので 「転けて顔を打ったから鼻血が出ちゃったのよ」 と説明してあげた。 そして思った。 これで一体何回目だろう、 フランスで転けて怪我をした老人を見るのは、と。 大分前にも同じような事があった。 その時は確かバカンス中で 子供達を連れて公園に行く途中だった。 大通りを歩いていた時に 前方を歩いていたおばあさんが転けたのだ。 運悪くかけていた眼鏡が割れたみたいで 目の上を切ったらしく相当の出血。 その時は私ともう一人近くを歩いていた男の人とで そのおばあさんを抱きかかえて道の脇に移動させて座らせた。 なにしろせまい道の真ん中でひっくり返っていて 血も辺り一面散らばっていたので その方が良いと判断したのだけど 転んだ時にどこか打ったのか おばあさんはなぜか自分一人で立ち上がれなかったのだ。 おばあさんとは言ってもとてもがたいの良いご婦人だったので その時は重さで腰が痛くなって困った。 そのすぐ後やって来た若い女の子が 自分の携帯で救急車を呼んでくれたので 私は小さな子供二人を待たせているし その時はそれで失礼させてもらった。 あのおばあさんはその後ちゃんと病院に運ばれたはずなので 別に心配はしなかったのだけど。 でもどうしてこんな風に 道ばたで老人が転けるのか凄く不思議だった。 前にも家族皆で散歩に行った帰り道 バス停で血を流して座り込んでいるおじいさんを見た事がある。 彼が血だらけのティッシュで鼻を押さえていたので 旦那が「どうしたんですか?」と尋ねると 「さっき転けたんです」 との返事。 病院に行った方が良いでしょう と言う旦那の言葉に 「これから妹の所に行くので  バスに乗らないといけないんです」 なんて言う。 でも血が出てるのに・・・。 その時はまだ娘が小さかった事もあり いつも小型のタオルを持ち歩いていたので そのおじいさんに血を拭いてくださいと渡した。 そう言えばその前にも カフェのテラスに座ってお茶をしてたら 私達の席のすぐ横の道ばたに一人のおばあさんが座り込んだ。 実はこのおばあさん、 私が良く道ですれ違うちょっと太ったご婦人。 きっと近くに住んでるのだろう。 「大丈夫ですか」 と声をかけても ボケてるのか?意識がもうろうとしているのか? 目は開いているのに返事をしない。 お店の人がすぐ駆けつけて 救急車を呼んでくれた。 とまあ、こんな風に 道ばたで老人が転けたり怪我をしたりする場面に良く遭遇している私。 でも、 日本ではそんな目には一度だって遭ってない。 それがとっても不思議なんだけど。 ここがフランスだからなのかしら? 日本だといくら核家族化が進んでいるとは言っても やはり年老いた老人が一人暮らししている例は少ないに違いない。 でもフランスでは そんな老人達の何と多い事か。 私が知っている日本好きのおじいさんも 知り合った頃は75歳だったけど 今では83歳くらいになっているはず。 でもいまだに独り住まいだ。 勿論家族と一緒に住んでいる人たちだってたくさんいるだろうけど 日本とは比較にならないだろう。 ニースは気候が良い事もあり 老人ホームがとても多い。 でもそんな老人ホームに入るには きっと相当な準備金がかかるようだし 勿論そんなお金のない人は やはり一人でどうにかやって行くしかないのだ。 確か数年前の夏に 凄く暑い日が続き その為に驚くほど多くのお年寄りが亡くなった。 その大部分は一人暮らしで 充分な水分補給をしてなかったのが原因。 哀しくなってしまうけど それが今のフランスの現実だ。 そしてそんなお年寄りは 買物だってやはり人に頼んでばかりはいられないし 色々用事だってある。 ずっとアパートに閉じこもっている訳にもいかない。 と言う事で外出する。 で、足下がふらついて転けてしまう。 と、これが私が想像した、 フランスで老人達が転ける理由だ。 多分間違ってないと思う。 哀しいなあ。 やりきれないなあ。 自分の今後が心配でもあるなあ。 この国に住んでるんだから仕方ないのだろうけど。 でも、日本も他人事じゃないと思った方が良いかも。 いつかこんな日が来てしまわないとも限らない。 blog ranking

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