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長月壱拾五日 午之刻 之頃 ”ショチョー”と呼ばれる上士・堀衛門の華燭の典に出るべきか、それとも思いつきで決めたニュージーランド決死行を敢行すべきか悩みながらも、御庭番は着々とニュージーランド行きの準備を進めていた。久方振り山行、しかも初の海外登山(と言う程の所でもないが)のことであったので、準備は万端にする必要があったのである。ニュージーランドは入国に際して、食物でも種子類を持ち込むことはおろか、靴に付いている泥を国内に持ち込むことすら禁じられている。御庭番は長年の相棒であった登山靴も思い切って新調し、日本とは季節が真逆の気候に対応するべく、登山用のズボンや水筒まで新調して、投資金額は日に日に膨らんで行った。 更に伍日間御奉公を連続して休むからには、やるべきことはやっておいてから国を出なければならないので、いつにも増して毎日毎日残業残業雨残業のやっつけ仕事で仕事を消化していた。 毎月恒例の御蔵米の算段も終わって―。 『よし、こんなモンでござろう。』 背嚢に必要最低限の装備を詰め込んで、御庭番は足慣らしの為に新調したばかりの登山靴を履き、全身オノボリサンなイデタチで草庵を出た。御庭番が搭乗する飛行機はニュージーランド航空のオークランド直行便。成田空港第弐館から出発する。御庭番は生まれて初めて成田エクスプレスに乗り、一路成田空港へ。NEXと車体に印字されているその列車は、御庭番がこれまで一度は乗りたかった車両。車内では特に何事も無く、大都会御江戸の風景が、段々寂れた農家の風景に変わって行くのを見ていると、旅の始まりを実感したモンである。 昼過ぎに出て、成田空港に到着したのが未の刻頃。空港の地下で遅い昼飯を採った後、御庭番は海外でも通話ができる携帯糸電話を予約していたので、窓口へ向かうも、予約をしていた場合は、自動貸出預函があるので、そこで簡単に借りることができた。何でも手軽な世の中になったモンである。 御庭番が今回の旅行を申し込んだ旅行代理店の定める待ち合わせ時間は申の刻。まだ少々時間がある。 (そー言えば旅程表を確認しておかなければ・・・) 忙しさに感けて、旅程表を確認することも満足にしていなかった 一通り旅程を確認した後、最後に今日出発する飛行機のフライト時刻を何気に見てみると、酉の刻になっているじゃあーりませんか。 成田空港の真ん中で御庭番は手持ち無沙汰に佇んでいた。 長月壱拾五日 申之刻 之頃 空港の中を散策したり、煙管を吸ったりして時間を潰していると、やがて待ち合わせの時間に。御庭番は指定された窓口に行き、愛想の悪い受付嬢から航空券を受け取ると、空港会社の窓口へ。世間は平日だと言うのに空港の窓口は長蛇の列。しかもババアばかりで若い娘がほとんどいません。年寄りは日本国内では礼儀にうるさい癖に海外のマナーを知らん輩が多いので、御庭番は少しうんざりしていた。 ニュージランド航空の窓口での手続きも、今はインターネットの普及により、簡単に済んだ。御庭番は再び空港のロビーに戻ると、朋友に電子飛脚を送ったり、煙管を吸って時間を潰していた。やがて―。 ”成田空港発ニュージランド航空90便オークランド行に搭乗のお客様、間も無く搭乗手続きを開始します。” と言うアナウンスが。御庭番は待ってましたとばかりに立ちあ上がり、出国審査を受ける。身に付けている金属類を外して金属探知機のゲートを潜り、一発で通過。搭乗ゲートは第弐旅客ターミナルから離れた所にあるので、シャトルに乗って搭乗口へ。まだ時間があったので、伍日間分の煙草を買い、旅の御供に酒を買った。友の名はシーバスリーガル。ジャックダニエルと並ぶ 御庭番の”トモダチ”である。御庭番はトモダチを手に携えて、搭乗館の中の喫煙室へ。喫煙室の中には様々な人種・国籍のスモーカーが紫煙をくゆらせていた。御庭番が空いている席に座って煙管を吸っていると、隣のベトナム人がライターの火を着け辛そうにしている。御庭番は懐から火打石を取り出し、ベトナム人のオッサンに渡した。 『ぷりーず。』 「Oh,Thank you」 ベトナム人のオッサンはグエンさんと言って、日本に商用で来たのだと言う。一箇月程滞在して色々な工場にアタリを付けたが、目ぼしい収穫は無かったと言っていた。グエンさんは御庭番に火打石を返そうとしたが、御庭番は、 『いっつぷれぜんととぅゆー』 「Are not you embarrassed?」 『あいひゃぶあなざーぴーす。でぃすわん。』 と言って、御庭番はもう一つ持っていた火打石を見せて、グエンさんを安心させた。グエンさんは礼を言ってその場を立ち去った。ただ、グエンさんが立ち去った後で御庭番が気になったことが一つ。 飛行機に持ち込んじゃいけなかったんじゃなかったけ (^▽^;)? まあ、搭乗口にいる以上、もう出国審査は通っている訳で、御庭番も通過して来たんだから大丈夫だとは思うが・・・ベトナム国内の事情についてまでは感知しておりませんので、あしからず(悪) 待ち合わせの間ムダに時間を費やしていると、やがて搭乗ゲートの番号が表示され、搭乗が始まった。ビジネスクラスの御大尽の搭乗が優先され、貧乏人のエコノミークラスは後。御庭番は貧乏人軍団の先頭を切って飛行機に搭乗。窓側の席に腰を下ろした。小半刻後にはいよいよ離陸し、日本を飛び立つ ”お客様にお詫び申し上げます。既に離陸の時刻を過ぎておりますが、只今、荷物を載せる作業に時間がかかっております。もう暫くお待ち下さい。尚、只今より機内の映像システムの運用を開始します。お待ち頂く間、座席前のディスプレイでお楽しみ下さい。” と言うアナウンスが。まあ、飛行機にはよくあることと諦めて、前の座席の背凭れに付いているディスプレイの画面を操作 ”・・・―重ねてご搭乗のお客様にお詫び申し上げます。只今、映像システムの機器が正常に作動しませんので、機器の再起動を行っております。誠に申し訳御座いませんが再起動に十分程かかります。暫くお待ち下さい。” 大丈夫かおい(--;) 何か整備不良とか起きてんじゃないのか。旅の初っ端からつまずいてどうする。 結局離陸は一時間程遅れ、戌の刻になって突然飛行機が動き出した。冬のことなので、既に陽は西の山の端に沈み、辺りは暗くなっていて、窓の外の風景はよく見えない。飛行機はゆっくりと旋回し、滑走路に到着すると、管制塔の指令を待っているのか、暫くその場に停車した。 ら ”お客様に申し上げます。只今成田空港、離発着の飛行機で大変混雑しています。管制塔から離陸の指示があるまで、暫く待機します。尚、現地到着時刻には遅れない様、速度を上げて飛行しますが、天候等に拠り若干の遅れが出る場合がございますので御了承下さい とノタマウ機長のアナウンスが。御庭番はオークランドに到着後、国内線に乗り換える必要があったので、遅れるのは困ります。乗り換え迄に間に合わなかったりしたら旅の計画が狂うじゃあーりませんか。 (まー、元はと言えば無理無駄無謀無計画な旅なんでござるが^▽^;) そして暫く停泊した後、機体がゆっくりと動き出し、やがて全身に凄いGがかかり始めて―。 遂に離陸! (写真は御庭番が乗った飛行機とは全く関係ありません) 見送ってくれる人も無く日本を飛び立った御庭番・麻生百合之介。その行く手に世界中の人々を震撼させる出来事が待っていることを、神ならぬ身の御庭番には知る由もなかった―。(次回に続く) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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