佐遊李葉 -さゆりば-

2008/11/20(木)14:20

光明遍照 -23-

光明遍照(53)

 石嶋の怪我はひどく、足は焼け爛れて捻じ曲がり、もう一人で立つことが出来なくなってしまった。それに火傷は治ったり膿んだりを繰り返し、その毒が身体に回っているのかなかなか熱も引かない。  自分の小屋に連れてきてしまったので、駿河麻呂は仕方なく石嶋の看病をし始めた。もちろん、ずっとそんな厄介を引き受けるつもりはないからいろいろ掛け合ってみたが、鋳師たちは多忙を理由に引取りを先延ばしにするばかり。  それに、石嶋には身寄りが誰もいなかった。ずっと昔に妻子を亡くして以来、長らく一人暮らしを続けてきたらしい。結局、駿河麻呂はそれから今まで五年近くも石嶋の面倒を見続けているのである。  だが、それほど悪いことばかりではなかったのかもしれない。  石嶋は我慢強い病人で、出来る限り駿河麻呂に厄介をかけまいと気遣ってくれていた。それに、石嶋は朗らかな性格で喋り好きだったから、無口な駿河麻呂も次第次第に石嶋に引き込まれて、ついいろいろ話してしまう。  故郷の駿河の里や弟との思い出。仏師の世界の苛めや嫉妬。大仏建造の苦労や喜び。他の者には決して口に出来ない愚痴や弱音さえも、石嶋にはなぜか不思議と話すことができた。  いつの間にか駿河麻呂は、石嶋にだけは自分の本当の心を打ち明けるようになっていったのである。 ↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m

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