2009/06/04(木)15:56
山吹の井戸 -42-
今や妹は、高らかに哄笑を上げて少将を嘲笑っていた。
「分をわきまえて、自分の身の丈にあった男で満足すればよいものを! 高望みするばかりで、姉様は自分の幸せを自分から捨てたのですよ。それなのに、自分は被害者だと哀れんでいる。何と馬鹿馬鹿しい。姉様こそ、実りのない恋など諦めて、ご自分が本当に求めていたとおっしゃる妻になれば良かったのに。姉様だったら、誰であってもすぐに夫にできたでしょうよ。あの御方以外、ならね」
「そんなものにはわたくしは満足できなかった。誰があの方の代わりになどなれようものか。本当に欲しいものでないのなら、不満足な代用品などわたくしはいらない」
「なんという強がり! わたくしにはそんな姉様が我慢ならなかった。欲しくてたまらないくせに、いつもすました顔をして人を見下している。自分は誰よりも優れていて、決して取り乱したり羨んだりしない。そんな風に、いつも全てに満たされていることを装った高慢ちきな女。どれだけそれが憎らしかったか……」
妹は急に激しく咳き込んだ。興奮にまた発作が起こってきたのだろうか、口元を押さえた袖口にまた血が滲む。
憤りはまだ激しかったが、いつもの分別が僅かに戻ってきた少将は、思わず妹の肩に手をかけて言った。
「もう良い。これ以上しゃべっては身体に障る。少し横になりなされ」
だが、妹は少将の手を邪険に振り払い、きっと少将を睨みつけると叫んだ。
「その、姉様ぶった態度! それが何より腹立たしいのじゃ。いつもわたくしを子ども扱いして、わたくしのいうことなどまともにとりあおうともしない。その上、わたくしを哀れむような目で見る。いつも男に捨てられて憂き目を見る可哀想な女、と」
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