2014/01/06(月)14:37
遠き波音 -28-
近江守はその厳かな響きに耳を澄ませた。海に近い播磨の国府で暮らしたことのある近江守にとっては、懐かしくも聞きなれた響きだ。
だが、京を一度も離れたことのない者にとっては、物珍しい音らしい。馬の口を捉えていた近習が、近江守を見上げて尋ねた。
「守殿、あれは獣の鳴き声でしょうか。何やら遠くでごうごうと唸るような音が聞こえまするが」
近江守は少し苦笑して答えた。
「あれはただの波の音だ」
「波の音? このような湖でも波が立ちまするか」
「海に比べれば穏やかだろうが、今日のように風の強い日にはなかなかに荒れると聞く」
それを聞いた近習は、感嘆したように額に手をかざして湖面に目をやった。
近江守一行を先導していた近江国府の小役人が、馬上の近江守を振り返って言った。
「国府の舘も湖に近うございますゆえ、朝晩にはこのような波の音が聞こえまする。都のお方には少々うるそうございましょうが」
↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
↓大津のホテルから観た琵琶湖の岸辺。向こうで半ば雲に隠れている山並みが比叡山です。