2015/06/02(火)11:45
羅刹 -127-
能季ははっとして頼通の顔を見た。
視線を微塵(みじん)も揺るがすことなく、能季の顔を見つめる頼道の目。
人の心の奥底を見通すような冷たい眼差しが、能季を容赦なく射抜いている。
能季は何とか取り繕(つくろ)おうと、必死になって言った。
「何のことでしょうか」
「とぼけるな」
眼差しと同じように、その厳しい声音も凍えるように冷たく、まるで取りつく島もない。
能季はなぜか、今初めて頼通の本当の顔を見たような気がした。
いつも宮中で見かけているあのいかにも大貴族らしい温厚で大らかな顔付きは、頼通がいつの間にか身につけた仮面に過ぎないのだ。
いまや、頼通は冷酷で無慈悲な権力者の素顔を剥(む)き出しにしていた。
そして、情け容赦のない口調で、能季を厳しく問い詰めている。
「昨日の夜遅く、三条の屋敷から師実の乳母が訴えてきた。そなたが高陽院へは知らせるなといったこともな。それで、急いで師実の様子を見に行ったら」
頼通はそこでぐっと言葉に詰まってしまった。
その折りの、師実の忌まわしい面相でも思い出したのだろうか。
頼通はしばらく黙っていたが、それでかえって怒りが倍加したのか、急に能季に詰め寄って胸倉を掴むと叫んだ。
「あれは一体どうしたことだ!」
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