2024/04/08(月)23:37
アウフヘーベンという考え方
観念哲学を唱えたヘーゲルというドイツの哲学者がいます。
ヘーゲルは、止揚(アウフヘーベン)という概念を作り出しました。
どんなものかというと、先ず、ここに、ある考え方が一つあるとします。
ドイツ語でいうと、テーゼ(正)です。
一方、反対の考えがあります。アンチテーゼ(反)です。
そして両者の対立が生まれて、どちらかがどちらを打ち破る、というのがそれまでの構図でした。でも、ヘーゲルは違います。
対立するのではなく、それぞれが止揚(昇華)して新しい考えを生む、と考えたのです。
分かりやすく言うと「正・反・合」の三角形をつくるといってもいいでしょう。
それがヘーゲルのいう「止揚(アウフヘーベン)の考え方です。
(あたりまえのことをバカになってちゃんとやる 小宮一慶 サンマーク出版 39ページより引用)
これは森田理論でいうと精神拮抗作用のことだと思います。
人間にはある欲望が起きると、それに従ってそのまま突っ走るのではなく、それを制御する考えが同時に湧き上がってくるというものです。
たとえば食べ放題飲み放題の居酒屋での宴会に参加するとき、「今日は思い切りビールや日本酒を飲みたい」と思ったとします。
「でも二日酔いになって、明日苦しむのは困るなあ」と欲望を制御する考え方も同時に起きてくるというものです。
この制御機能が壊れると、双極性障害の人のようになります。
うつ状態の時は家に閉じこもり、不安や恐怖で身動きできなくなります。
反対に、躁状態の時は別人のように変身します。つぎつぎと高額商品を買う。
壮大で実現不可能に思えるようなことを、自信満々で行動を起こそうとする。
とにかく思いついたことを、深く考えないで発言する。
発言だけならよいのですが、周りの人を巻き込んで行動に移す。
そして財産を失い、人の信用を失ってしまうのです。
反動で今度はうつ状態へと落ち込んでいくのです。
普通の人はもともと精神拮抗作用が標準装備されています。
車でいえばアクセルとブレーキが同時に標準装備されているようなものです。
それがないともはや車とは言えません。
問題はその機能を、状況に応じて適切に使うことができているかどうかです。
たとえば、対人恐怖症の人は人を見ると自分に危害を加えるようで怖い。
そのために言いたいことも言えなくなる。我慢する。耐える。
そんな人を避けて話しもしなくなる。
営業の人は、新規開拓の場合、断られて自尊心を傷つけられることを危惧して、手も足も出なくなり、仕事をさぼることが習慣になる。
これらは不安に振り回されて、みんなと仲良く和気あいあいと仕事をしたい。
営業で成果を上げて評価されたい。収入を増やして豊かな生活を送りたい。
ライバルたちに勝って営業成績を上げたいという欲望という面を無視しています。
不安に圧倒されて、欲望がある事さえ感知できなくなっているのです。
これでは、双極性障害で苦しんでいる人と何ら変わりがありません。
双極性障害は薬物療法で治すことができますが、対人恐怖症の場合は不安を軽減することは可能ですが、根本的な解決策にはなりません。
どうすればよいのか。森田理論でいうバランスや調和を意識することです。
この場合は、不安に手を付けないで、生の欲望を活性化させることで、少しづつバランスが回復してきます。一旦回復基調に入ったら今度はそれを維持する努力を日々積み重ねることです。
私がいつも説明しているサーカスの綱渡りの話を思い出してください。
意識づけとして目の前に天秤やヤジロベイを飾ってください。
私たち神経質者は意識しないと、すぐにバランスを崩して、不安や恐怖に振り回されるという人種なのです。この調和やバランスの維持は、森田理論の核の一つとなる考え方です。