2022/01/19(水)07:54
まず相手のことをよく知るということ
九州・沖縄サミット蔵相会合の総料理長を務められた三國清三さんのお話です。
三國さんは20歳のとき、スイス・ジュネーブの日本大使館の料理長として赴任されたそうです。
あるとき、その週末にジュネーブ駐在の米国大使ご夫妻らを招いての晩餐会の予定があった。こういう機会は、料理長の腕の見せ所になる。
普通は、最高の食材や珍しい珍味を取り寄せて、自分の得意料理を披露することになるように思われる。
三國さんのそのようなやり方はしないそうです。
三國さんは、まずゲストに関する情報を徹底的に調べるのだそうだ。
宗教によって、豚肉は駄目、鶏肉は駄目という場合もある。
食物アレルギーはないかどうか、好きな食べ物、嫌いな食べ物、どんな飲み物が好きなのかなど。これらはゲストの行きつけのレストランなどに聞けばすぐに分かる。「うちの店に来られたら、いつも決まってこれを召し上がる」といった飛び切りの情報がつかめれば、そのレシピを聞き出して、実際にお出しする。
今回は1日休みをもらい、米国大使の行きつけの店に出向き研修をさせてもらったそうだ。厨房に入れてもらい、どんな食材をどこから調達し、どんなものをどんなふうに作っているのか、つぶさに観察をされたという。
事前に好みや苦手な食材をすべて調べ上げて、その店に倣ったフルコースを作ってお出しした。その中に「ウサギ肉のマスタードソース」というのがあった。
米国大使はそれを口にして、「これは僕の大好物なんだよ」と大喜びだったそうだ。晩餐会は終始和やかなムードに包まれて、日本大使からお褒めの言葉をいただいた。(食の金メダルを目指して 三國清三 日本経済新聞社114ページ参照)
この話は、相手の興味や関心を掴んで、それに応えることが、どんなにその後の展開を和やかなものにするかを教えてくれている。
自分の身につけた技術、自分の頭で考えたアイデア、自分の人生哲学などを相手にアピールすることも大切である。
ところが相手のことをまだよく分からない段階で、それらを積極的に打ち出すのは、いくら優れたものであっても、相手に喜ばれることは少ない。
順序としては、相手の趣向、考え、性格、興味や関心などを把握することが大前提になる。そのためには相手のことをよく観察する。相手の話をよく聞く。
いったんは相手の話に共感する。受容する。
そこに自分が身につけた技術や能力、アイデア、考えなどを提供して、相手の希望を満たしてあげる。そのように心掛ければ、相手から感謝されるようになる。
森田理論では、相手に自分の「かくあるべし」を一方的に押し付けてはいけないという。そんなことをすれば相手から反発を食らい、人間関係は悪化する。
反対に相手の現状や状況を観察して、相手に寄り添うことにエネルギーを投入するほうがよほど人間関係が和やかになる。いわれてみれば当たり前のことですが、その順序を間違えている人が多いように思われる。