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なんであたしがあんたの機嫌取んなきゃいけないのよ

なんであたしがあんたの機嫌取んなきゃいけないのよ



2023.02.18
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カテゴリ:アメリカの本

所有せざる人々/アーシュラK.ル・グィン

めちゃくちゃ面白かったー!
あらゆる贅沢品に囲まれた資本主義の欲望惑星ウラスvs荒涼とした資源に乏しい星で何も所有せず国民ですべての者を分かち合うアナレス
この設定だけでも面白いのが確定している。

資本主義・競争社会・成果主義・物が常に溢れていることに飽き飽きしている、そしてその中で自分が大したものを得られない程度の能力しかないことにも飽き飽きしている私にとっては、アナレスこそが地上の楽園と思えるような出だしでした。

しかし、革命主義・所有しないことを信条としているアナレスでさえも、個人にはさほど自由がない。
楽園なんか結局どこにもないんだなと思わせるようなリアリティ。
政府や統制の全くない自治組織のアナレスでは、隣人と仲良くやっていくことが最も大事。
でも仲間内でも好き嫌いはあるし、人が集まれば権力のようなものが出来上がっていく。自分より才能のあるやつが現れたら、そいつが活躍できないように足を引っ張る。
普段は自分の好きな研究を大学みたいな施設でやってて、当番制でゴミ処理とか農業とか力仕事を数か月やってまた研究に戻るという理想的な晴耕雨読の惑星という記述から始まる。

でも、郊外に住んでいる私は、洗練された学問というのは都会にしかない、と思ってしまうな。色んな最先端の文化とか多様な人間に触れて初めて刺激を得られる気がする。
地方にも立派な大学はいっぱいあるし、優秀な人間はどこでも成果を上げられると思うけど。
少し出歩いたときに得られる情報には田舎・郊外・都市で雲泥の差があるもの。

そういう中で、シェヴェックが、銀河系のどの惑星にもない理論を導き出せるくらいの素晴らしい頭脳を持てたことに驚きを感じた。他の惑星から相対性理論を仕入れて、思考が拡大したのもあるかもしれないけれど。
アナレスでは実用一辺倒で、飢饉とか水不足に即対応できるような技術・学問しか大事にされないので、その場ですぐに使えない時間の理論は研究価値のないものとみなされてしまう。
アナレスで研究の手段を失ってしまったシェヴェックはウラスに行くことに。

アナレス人が共通して信奉している革命思想に少しでも反対の立場を示したと思われたら、精神病院に押し込められることになってしまうのも恐ろしかった。結局言論統制されてるじゃないの。
プア充の経済学を聞いたことがあるけれど、それに近いかも。
お金を持っていないので、仲間をめちゃくちゃ大事にする。食料も仕事もお金も娯楽も全部仲間と分け合う。気が合う内は楽しいし、困った時は助けてもらえるけれど、一度モメると生活の基盤すべてを失うことになる。だから仲間のことは一番大事と思わざるを得ないし、和を乱すことは絶対にできない。
そこで孤立してしまったシェヴェックが主人公。

ウラスはこの世の楽園みたいなところに思えた。
ちょうど、この本を読んでいるときに東京都現代美術館でディオール展をやっていたので見に行ったのだが、ウラスを歩いているようで頭が混乱した。
贅を尽くしたドレスが並ぶ。今までの価値観を覆すような大胆なカッティングの中に伝統的なレディの装いが混ざり合って、物凄く洗練された服飾の嵐だった。
細かい所まで完璧に作り込んで、虚飾の楽園だったのだが、あの圧倒的な美しさには強い肯定力みたいなものを感じた。
おそらくシェベックはディオールのような物凄いルッキズムで完璧にキメたウラス人の群れの中にボロボロの作業着で乗り込んでいったのだろうな。
所有しないことが当たり前で豪華に装うことに何の価値も感じないどころか、そこにお金や資源を使うのはバカげていると思っているようなシェベックでも、高度に洗練されたウラス人の装いの中に入ると自分がみすぼらしく感じる。文化の圧力

しかし、このなんでもそろっている研究者の楽園のようなウラスの大学でも、整備され過ぎていて逆に何も捉えることができず、すべてのものが手から滑り落ちていくとシェヴェックは考えるものなのだな。
本棚の群れを見るとどれを読むか選べないけど、近づいて行って、一冊の本を手に取って読み始めれば捉えることはできるのでは?などと思ってしまった。

そして、物語の最後になって、シェヴェックがなぜウラスに招待されたのか、という核心を説明してくれる章があったのがありがたかった。
単なる旅行記ではなかった。このバカ救済措置のおかげで私はこの本が言いたいことがわかった…!
アナレスでは無用の長物だと思われた時間の理論は、ウラスにとっては全宇宙の支配者になれるかもしれない重大な理論だったので、シェヴェックを買い取って理論を絞り上げたいというウラスの魂胆。
でもシェヴェックはウラスの利権のために理論を発表したくないので、全宇宙に向けて無料で利用で閲覧可能な理論にしたい。
アナレスとウラスというどちらも考えようによっては楽園なのに、そのどちらにも所属できないシェヴェックが珠玉の理論を生み出せる。優秀で一番大事にされるべき人がないがしろにされる話ともいえるな。

そして、日本はウラスよりだと思うのだが、徐々にアナレス化していってるなーと思った。
丁度良い折衷案で完結しないかなーあふれかえる富はもう私物化せずにレンタルして使い終わったら返却する。娯楽は徐々にそうなっていってるよな。
世界の富を本当に平等に分配できるのなら、地球人は一人残らず安穏に生活していけるだけの配当はあるだろうに
そして、折角ウラスに住んでるなら、できる限り文化的に過ごしたいかもなーとも思った。
なんか最近ルッキズムから解脱してしまった感じがある。とりあえず仕立ての良いスーツを2着買ってそれを延々に着まわすだけの生活。でも見かけの上では効果上々。
これだけ沢山の物が周りにあるのだから、選ぶ自由を楽しまないと損なのかもなー
目の前にあるものを楽しんで味わうことができるかどうかが問題だから、所有するかしないかはどちらがより楽しい気分になれるかで決めることだな。と結論付けられるのも自分がウラスよりの人間だからだろうなー所有できるだけの物資と資金を持っている上で、所有しないことを選ぶというのが文化的な人間の権利だから。





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Last updated  2023.02.18 10:59:12


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