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忘れられた巨人 [ カズオ・イシグロ ] なぜか記憶が長続きせずに、起きたことをすぐに忘れてしまう国で生活する老夫婦が息子を訪ねに長い旅に出る話。 過去に何が起きていたのかわからず、自分がなぜ今ここで生活しているかもわからない。 息子となぜ離れて暮らしているのかもわからないけど、離れ離れになる必要がないから会いに行こう、と決意をするわけなんですけど。
霧の中を手探りで出発して、旅のほぼ終盤にくるまで手ごたえが全くない。 忘れていたものの中には重大なこととか、思い出したくもないようなことがあっても、老夫婦が長年かけて育ててきた愛だけはどんな記憶にも脅かされないはずだ。ってのをまた400ページくらい読むわけなんですけど。
わたしを離さないでと同じように、最後の2ページで決定的なことが明らかになるんだろうなーという期待がなかったら本当にしんどい構成だった。
深い愛で結ばれている、と主張している割に、なんかこの老夫婦の会話は噛み合わないなーと思っていました。 アクセルがベアトリスのことを「お姫様」と呼ぶのが微笑ましいなーと思いつつ、ベアトリスを尊重しているのか、わがまま放題のお姫様の従僕ポジションであることを揶揄しているのか、わからなくなってきました。 ベアトリスは終始、アクセルの主張とは反対の意見を唱え続け、アクセルはしぶしぶ意見を飲み込んで従う。そしてベアトリスが疲れたり傷ついたりしないように守る。 体力的に無理だから、今日はもう休もう、という気づかいさえ、ベアトリスは反対。 なんとなく、アクセルの方に惚れた弱みというか、過去に負い目があって、ベアトリスを尊重せざるを得ないような立場なのかなーと思っていました。 旅の中で、川を渡らないと先に進めない状況の中で、船頭が、本当に愛し合っている夫婦でないと二人一緒に川を渡してくれない、というなぞの問いかけが発生。 愛し合っているかどうかは、一人ずつ「一番大事な気な記憶は何か」と聞いて、答えが一致したら合格。不合格の場合は、夫一人だけ川を渡され、妻はそこに取り残され、永遠に離れ離れになってしまうという過酷なもの。 なんでこんなことするんだろう、理不尽すぎだろーと思うものの、記憶がなぜか失われていくこの世界で、愛を証明することは非常に困難。 過去の記憶の連続性なくして、自分がどういう人間なのか、自分だって確認しようがないもの。 そう考えると、自分以外の相手を過去から現在までずっと愛してきたのか証明できるはずもないですね。 船頭いわく、二人の記憶を聞いてみると、そこには孤独への恐怖しかなかったり、永遠の不毛だけがあったりする、とのこと。別にいろんな夫婦がいるんだから、それでもいいじゃないかと思いますけどね。結婚したことないからわかんないけど。 愛が証明できないってことは、憎んでいたことも証明できないって考え方が面白いなーと思いました。 忘れられた巨人って、自分の中の憎しみの記憶のことなのかなーと思いました。 憎しみを忘れていれば、別の民族と過去にした戦争の記憶もなくなりますから。 日々鍛錬し続ける、若い戦士が、過去にブリトン人から受けたいじめや嫌がらせの記憶を絶対に忘れないようにしている。弟子にもそれを植え付ける。 別のブリトン人から篤くもてなされたり、よくしてもらったりすることがあっても、絶対に憎しみを忘れてはならないと心に誓う。 平和で満ち足りているときは、仲良しでも、自分の身が脅かされそうになったときにあらわれる本性で傷つけられないように、いつでも憎しみを覚えていて、いざというときに戦えるように訓練するってことなのか。 アクセルも、過去には人格者の騎士として、戦争終結後の平和条約のために奔走していたのに、最終的にアーサー王と仲たがいして口汚くののしり去っていった。 ベアトリスに対しても、そういう気持ちがあったのかもしれません。 途中までは忠実な騎士でも、自分の信念には違うことを主君がしていることが分かったときにキッパリ決別するタイプ。
あの船頭の問いかけは一体何だったのか。この夫婦は無事に川を渡りきることができるのか、というのが後を引くんですけど。 結局、船頭が二人を離れ離れにしたのではなく、どちらか片方が、相手の気持ちとか相手への自分の気持ちに気が付いて、川を渡ることを自ら拒否しているのかと思いました。 ベアトリスって自分の性格ゆえに村八分にされてたり、息子から縁を切られたり、ろくな女じゃなかったんじゃないの?そういうことに気づかず、自分のことを肯定しながら、一人だけ渡されてしまった島の向こう岸で、船頭のことをののしるんでしょうね。 忘れられた巨人は忘れたままのほうがむしろ幸せだったんじゃないかなと私は思いました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018.03.18 15:48:15
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