111580 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

週刊ブログ 日本の詩と男声合唱曲

週刊ブログ 日本の詩と男声合唱曲

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

プロフィール

ks1344

ks1344

カレンダー

コメント新着

コメントに書き込みはありません。

お気に入りブログ

まだ登録されていません

フリーページ

キーワードサーチ

▼キーワード検索

2008年08月30日
XML
カテゴリ:今週の詩





男声合唱組曲
「月に寄せる歌」 

         
詩:北原 白秋  作曲:多田 武彦



1、新 月

断崖
(きりぎし)の松の木に

月ほそくかかりたり、

ほそき月

金無垢の月。



入海の波間にも

また、月はしづきゆく、

沈沈と

金の鈎
(はり)。



金無垢のするどさよ

絹漉
(きぬごし)の雨ののち、

しんじつに

走りいづるその蒼さ。



島黒く、海黒き

真の闇、

舟ひとつすすみゆく、

そのうへにほそき月。



なにかわかね、

魚族
(うろくず)は目をさまし、

鈴虫は一心に鳴きしきる。

(つつしみ)の極まり。



闇の夜は、断崖も、松の木も、

かげわかず、ゆく舟も見えわかず、

ただ光るほそき月、

金無垢のほそき月。



2、影

月のひかりはそよかぜの

風並遠く楽しみぬ。



月のひかりはさざなみに

さらに満しぬ、金の亀。



放て、心を、へうべうと、

空と水とのなまめきに。



はやなかれども雲に鳥、

誰ぞや遥けく影を追う。



3、短 日



新月が出てゐるなと

わたしは硝子扉
(がらすど)を透かして見た。

感冒の一日はさみしかったよ。

めずらしい赤い夕焼のあとで、

急にひえびえとして来た松ヶ枝、

あの透明な薄あかりの空こそ、

幼い昔の幻燈画を蘇らせて、

今またわたしを山の向うに誘ほうとするのか、

ああ、童女のほそい蛾眉が出て居る。



4、月から見た地球



月から見た地球は、円かな、

紫の光であった、

深いにほひの。



わたしは立ってゐた、海の渚に。

地球こそは夜空に

をさなかった、生まれたばかりで。



大きく、のぼってゐた、地球は。

その肩に空気が燃えた。

雲が別れた。



潮鳴を、わたしは、草木と

火を噴く山の地動を聴いた。

人の呼吸を。



わたしは夢みてゐたのか、

紫のその光を、

わが東に。



いや、すでに知ってゐたのだ。地球人が

早くも神を求めてゐたのを、

また創ってゐたのを。



5、珠数工の夜



青い月夜の七分がた、

影が持ってる、紺のかげ。

 ああ、ひたすら、

 珠数のたま磨る響がする



空に息づむ椎わか葉、

白う幅だつ墓地の露路。

 ああ、かすかに、

 珠数のたま磨る円鑢
(まるやすり)



現ならぬか、蒸しつつも

(おもて)なまめく石の靄(もや)

 ああ、ひとすじ、

 珠数のたま磨る窓あかり。



飛ぶは蝙蝠、金の縁
(へり)

月は五重の塔のうへ。

 ああ、ひたすら、

 珠数のたま磨る人が居る。



6、童話の月



大きな黄色の月、

童話の中の月、

おお、浜辺へ出て、手をあげて呼ぶのは誰だ。

吠えてる、吠えてる。

おお、をどってる。

をさない愛着、白いけもの。

おお、あの空だ。海の向うの向うだ。

煙がひとすぢあがってゐる。



7、月光の谿
(たに)



(よ)の月映(つくばえ)に流るるは

すずしき秋の縹雲
(はなだぐも)

(月こそ神よ、まどかにて。)



現ならぬか、観るものの

青みやすらふ寂
(さ)びと光沢(つや)

(月こそ神よ、まどかにて。)



(ひ)あしの芯の黄に燃えて

みながら湿める谿の戸や。

(月こそ神よ、まどかにて。)



童よねむれ、虫の音の

降るかにすだくやはらぎを。

(月こそ神よ、まどかにて。)



かの月映に流るるは

豊けき秋の縹雲
(月こそ神よ、まどかにて。)













お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2008年08月31日 16時21分06秒
コメント(0) | コメントを書く
[今週の詩] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.