買収ファンドの狙う次の株
最近、記事を書きました。 書名は「株M&A大化け相場に乗り遅れるな!」日本実業出版社です。 袋とじ企画「買収ファンドが狙う注目の20銘柄」を執筆しています。 本書の中で私が述べている買収ファンドがターゲットを絞る視点は前回コラムで書いたとおりです。 肝心の買収ファンドが狙う銘柄のトップ20位はさすがにこのコラムで書くと怒られそうなので、 こっそり書店で袋とじを上から覗いてみてください(笑)。 私は、仕事がら、投資ファンドの人々と話をするのですが、 彼らが極めて少数(数千億の資産運用を4~5人で行っている)であること、 それから我々と同様に、Bloombergなどの端末をつかった定量分析を主に 投資判断を行っているなどの話を聞くと、 投資環境は私達個人投資家とそれほど変わらないのではないか、と思います。 その意味で質はともかく、情報量としてはイーブンでしょう。 さて、今の日本のマーケットは、非常にゆがんでおり、一部の企業、例えば、 中央経済社や横浜丸魚、大本組などは その現金価値のわずか半分以下で取引をされている状況です。 当然、このような企業は、80年代にアメリカで流行した 企業解体型M&Aのターゲットとなりやすい特徴をもっています。 個別にみてゆくと、中央経済社の余剰資産 (必要な運転資金を超える流動資産と投資有価証券の一部)は 小さく見積もっても20億以上ありながら、その時価総額はわずかに23億。 事業は継続的に黒字だから、ファンドとしては、この会社を買収すれば、 たった3億円で、毎年、継続的に3.5~4.5億円の営業利益を稼ぎ出す出版事業を 丸ごと手に入れることができることになります。 株式の流動性は高くないが浮動株比率も40%を超えており、議決権も確保しやすい状況です。 横浜丸魚の金融資産は、現金20億以上、横浜銀行株80億円の合計約100億。 土地も帳簿上は10億ちょっとですが、時価はこれよりはるかに高いはず。 すると、土地を含まない金融財産の価値だけで100億はゆうに超えるのに、 その時価総額は50億ちょっとというまぬけな状況が続いています。 この会社は、もはや地味な水産会社ではなく、財産管理会社であることに市場はいずれ気づくでしょう。 こんな馬鹿馬鹿しいマーケットの状況は、いずれ解消されてしまうと思います。 すると、これからは、事業の本当の価値を見抜くことが、 個人投資家にとっても必要な時代になるはずです。 事業価値については、利益の成長が大きな鍵を握っています。 成長とは何か?いよいよその本質について私達は考える必要があります。 私は、成長の促進剤は、単純にいうと以下の2点であると理解しています。 1.需要 2.構造(ビジネスモデル) 1.需要 ようするに市場が伸びていることによって、企業が成長している状況です。 現在であれば、健康業界(健康食品・フィットネス)、 中国市場向けビジネス(繊維・化粧品)などでしょうか? パイの増加が、単純にその業界にいる企業の成長を牽引するというのは わかりやすいロジックだと思いますし、 投資判断においても、ある程度の確信をもって成長を肯定できるでしょう。 2.構造(ビジネスモデル) 次に、市場の伸びでなく構造上の優位性が高い成長の持続を可能にしている場合もあります。 先の需要が「パイ全体」の増加に当たるものとして、 この構造というものは、「パイの切り方」すなわち自社にとって有利にナイフを入れられるか、ということになります。 この“儲かる構造”を見抜くことができれば、成長株投資で本当の成功を勝ち得ることができるのではないでしょうか? 私は、成長をもたらす構造(ビジネスモデル)は、 「高い利益率を確保できるモデル」 と それを「どこまで横展開できるのか」 という可能性の2つの要因の掛け算にあると思っています。 まずは「高い利益率」について 以前、コラムで書いたように、高い利益率の源泉は、以下の二つのいずれかのはずです。 1.誰もできないことをやる 2.誰よりも効率的にやる 1.誰もできないことをやる バフェットは、「有料ブリッジ(橋)を持つ企業へ投資せよ」といいます。 黙っていてもお金がちゃりんちゃりんと入ってくる規制産業(例えばテレビ局)は儲かります。 それから、特許を含む高度な知的資産をベースとして高い利益率を維持する会社 (製薬、コカコーラ、コンサルティング会社)も高い利益率を維持します。 誰もやりたがらないことをやる会社も高い利益率を確保します。 具体的には、ポルノ・タバコ・酒・産業廃棄物処理・パチンコなどの社会必要悪企業です。 パチスロのサミーが良い例かもしれません。サミーのROEは、なんと30%~50%もあります。 2.誰よりも効率的にやる 誰よりも効率的にやろうとする会社は、噛み砕いて言うと、“多くのこと”を”うまくやる”会社です。 これにもパターンが二つあり、一つは、”長いバリューチェーン”をうまく”つなげている会社”です。 具体的には、SPA(製造小売)などがこれにあたります。 ユニクロの営業利益率は、14%であり、繊維業界の標準を大きく超えています。 (アパレル5~8%程度、繊維製造業 2~3%、問屋・商社1~2%) もう一つは、多くのことを自分以外の人を使ってうまくやる会社です。 ネットワークビジネスやフランチャイズビジネスがこれにあたります。 セブンイレブンやバリュー投資家御用達の明光ネットワークは、これにあたるでしょう。同業と比べて利益率(ROEや営業利益率)が高い企業を見つけたらチャンスです。 その会社がどちらのパターンで、利益率を高めているのかを確認し、理解できたら次のステップに入ります。 すなわちその高い利益率を維持しながら、横展開を行い、売上を伸ばせるだろうか?という疑問を考えることです。 企業が横展開する方向は、大きく以下の二つです。 1.同じ顧客に違う商品を売り込む 例えば、アスクルが文具以外のものを中小企業に売る、 楽天やカカクコムが商材・コンテンツを充実させる 等がこれにあたります。 この場合は、顧客のロイヤリティ(忠誠心)の高さがポイントになります。 2.違う顧客に同じ商品を売り込む 花王やジレットが、世界各国で同じトイレトリー商品を売る、 コカコーラが世界中でコーラを売る、スーパーが出店地域を拡大する 等がこれにあたります。 この場合は、商品展開の汎用性がポイントになります。 バフェットは、日常性の高い商品(かみそりやコーラやクレジットカード)を、 最高に効率的に横展開(世界中)できる会社に投資をしました。 彼の投資先は、「誰よりも効率的」に、「違う顧客に同じ商品を売り込む」ことのできる企業が多いのかもしれません。 それから、最後に、企業文化(企業のDNAともいう)が成長を促進するケースも多いと思います。 このあたりについては、ビジョナリーカンパニー2を読んだ方が早いかもしれません。 本書の描かれている“規律の文化”、“誰をバスに乗せるのか”、“第五水準の経営者”などは、 持続する成長企業のカルチャーコンセプトを雄弁に物語っています。 ただ、私自身は、残念ながら、成長を促進する文化をもつ企業を見抜き、 リスクをとって投資をするほど成熟していません。 むしろ、需要×構造の分析から持続的成長の可能な企業を見出し、 株価が安くなるまでずっとモニタリングを続けることを主としています。 いずれにしても成長を考える際のポイントは、以下の2点でしょう。 1.高い利益率を維持したままどこまで横展開を図ることが可能か、を見ること 2.成長率そのものよりも、“どのくらいの期間”成長が“持続”するのか見ること P,S 現在、書籍執筆中につき少しコラムが遅れています。 書籍ではできるだけわかりやすく投資戦略を伝えたいと思っています。 どうぞよろしく応援をお願いします。