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2012/07/23(月)19:43

「全国アホ・バカ分布考」読書レポート#2

気になる本(3637)

クマさんからリクエストのあった方言周圏論についてもこの本は言及していました。と言うかメインテーマに近い扱いとなっていて・・・ 本格的な民俗学論文とさえ言える労作になっています。(論文にしてはおもしろすぎるけど) <方言周圏論の地位>p81~84 方言周圏論の模式図  柳田國男は、方言周圏論のきっかけとなった「カタツムリ」の呼び名の基礎資料を、驚くべきことに私たちとまったく同じ、郵送によるアンケート調査によって収集していた。すでにその資料は失われ、詳細は今となっては明らかでない。わかっているのは、昭和2年6月、朝日新聞に招聘された論説委員を務めていた時代、「東京朝日新聞 柳田國男」という訳のわからない肩書きで、全国に方言調査を呼びかけたことだ。質問事項は合わせて32項目からなるが、おそらくその中のたったひとつ、わずかに「カタツムリ」の呼び名の方言だけが周圏分布を示していたものと推察されている。他の項目については柳田國男自身、生涯ほとんど言及することがあなかったからだ。  自らの直感を信ずるあまり、論を立てるに性急で、方言周圏論は、最初からまことにきわどいスタートであったと言う他はない。  しかし「蝸牛考」は発表されるや熱狂的に崇拝され、一部の研究者の間で、方言はなにもかも周圏論で説明されるという風潮を生んでしまったらしい。戦後、周圏論至上主義を警告するかのように、それだけでは説明できない事象の存在を主張し、地方でも方言が発生するメカニズムを説いた研究などが立て続けに発表された。それは周圏論を根底から否定するものではなく、その限界に目を向けたものだったが、これによって方言周圏論の占めていた特別の権威は失われ、読む者に与える印象としては、ずいぶんとおとしめられた結果となったのである。    一方、民俗学でも周圏論が有効なのではないかと期待され、熱心に調査されたが、この分野ではほぼ完全に否定されてしまった。方言周圏論は、追いつめられていた。  「あれはどうも成り立つかどうかわかりません」  とは、無念の表白だたのだろう。私はこの天才的な学者の、かなしみの声を聞くような気がしたのである。  それから間もなく柳田國男はこの世を去り、6年たって国立国語研究所から「日本言語地図」が刊行されはじめた。これは全国を2400ポイントに分け、面接による厳密な聞き取り調査によって募集された285語の方言分布図である。この中で周圏分布を見せていたのは76語、全体のおよそ27%にのぼった。少数派にとどまったものの、方言周圏論はやはり有効な理論であったことが改めて確認されたのである。  ただしこの調査でも、「カタツムリ」の五重の同心円に対抗できるほどの方言はひとつも見いだされなかった。多くが二重、三重の円にとどまり、四重の同心円が最高で、それは「牝馬」と「もみがら」のふたつの方言分布だった。「カタツムリ」の五重の同心円の数のみがとりわけ傑出したものであったことも、この調査で明らかになったのである。  「あれはどうも成り立つかどうかわかりません」  こんな弱気な柳田発言は撤回されるべきだという考えが、私の胸に湧き上がった。「全国アホ・バカ分布図」こそ、方言周圏論の厳然たる有効性を、改めて世に示すものではないか。 このあと番組スタッフは、全国の市町村の教育委員会宛てに3245通の絨毯爆撃のようなアンケートを実施するわけです。 そして、民俗学のシロウト集団でも、根性と手間をかければ・・・・ 方言周圏論の有効性を完璧に証明することになるのです♪ そのエピソードは長くなるので次回に報告します。 【全国アホ・バカ分布考】 松本修著、新潮社、1996年刊 <「BOOK」データベースより> 大阪はアホ。東京はバカ。境界線はどこ?人気TV番組に寄せられた小さな疑問が全ての発端だった。調査を経るうち、境界という問題を越え、全国のアホ・バカ表現の分布調査という壮大な試みへと発展。各市町村へのローラー作戦、古辞書類の渉猟、そして思索。ホンズナス、ホウケ、ダラ、ダボ…。それらの分布は一体何を意味するのか。知的興奮に満ちた傑作ノンフィクション。 <大使寸評> 番組に依頼した人の着眼がよかったのか、それを採用し追及させた松本修プロデューサーが偉かったのか♪ Amazon全国アホ・バカ分布考 ノンフィクション100選★全国アホ・バカ分布考|松本修 「全国アホ・バカ分布考」読書レポート#1

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