日曜日の朝日新聞に読書欄があるので、ときどき切り取ってスクラップで残していたのだが、これを一歩進めて、無料デジタル版のデータで残すことにしたのです。
・・・・で、1/27のお奨めです。
・あふれる「○○力」牧野智和さんが選ぶ本
・こころ朗らなれ、誰もみな
さっそく、図書館に借り出し予約するのもいいかもね。
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あふれる「○○力」牧野智和さんが選ぶ本より
「○○力」小史
<生き方の定番が揺らいで:牧野智和(早稲田大非常勤講師)>
昨年のベストセラー1位は阿川佐和子『聞く力』(文春新書・840円)だとのこと。「○○力」ものはもう出尽くしたと思っていたのだが、まだこのブームは続く、いや、一つの定番と化したのかもしれない。
『聞く力』以前にも、渡辺淳一『鈍感力』、姜尚中『悩む力』、池上彰『伝える力』など、「○○力」もののベストセラーはあった。この系譜はどこから続いているのだろうか。
私の見立てでは、1998年に刊行された赤瀬川原平『老人力』が有力な「起源」だ。老いの兆候だとネガティブに捉えがちなことを「老人力」と言い換えることで、機知とユーモアをもって老いとつきあえるようになる。「老人」と「力」という意外な言葉の掛けあわせに、そんな効果があると知らしめた本だ。
言葉の掛けあわせによる化学反応を狙って、「○○力」はこの頃から増え始める。女性誌「anan」では同じく98年に「恋愛力」特集が組まれ、ビジネス誌では2000年以後に「仕事力」等の特集が次々と組まれるようになる。その動きは書籍へ、そして「人間力」(内閣府03年)、「社会人基礎力」(経済産業省06年)等の中央省庁による提言へと広がっていく。
■自分を操作する
恋愛ではなく、恋愛力。こう言い換えられるとき、何が起こるのだろうか。「一歩引く」ことになるのだと私は思う。つまり、ただ恋愛に没入するのではなく、「恋愛力は意識的に高められる」として、自らの振る舞いを一歩引いて観察し、また操作しようというモードになるのだ。
「○○力」が次々と生まれ、世の中に広がることは、今まで漫然と見過ごされてきたさまざまな事柄が、「実はそれってコントロールできるものなんですよ」と書き換えられていくことなのではないか。日常はこうして、自己啓発の実験場になる。このような議論の先駆としては、森真一『自己コントロールの檻』を参照されたい。
今まで気づかなかったことに意識的になった結果、目の前の悩みが解決するかもしれない。それはそれでいいことだ。だが、自己コントロールのチェックポイントが増えるというのは、自分を窮屈にしてしまいかねない。鈍感であることをあえてコントロールする、日々の言葉一つ一つに気を配る、異性に愛されるような振る舞いを意識的に行う、等々。これらは、自分の心の内に「あそび」をなくしてしまうような気がするのだ。
■私たちの現地点
ところで、なぜ次々と「○○力」が生まれ続けるのだろうか。包括的な説明を試みるならばこうだろう。かつて世の人々に共有されていた生き方や働き方についての「定番」が揺らぎ、人々は自らの力で、人生のさまざまな局面をサバイバルしていかねばならなくなった。そのような変化の対応物が世にあふれる「○○力」なのだ、と。こうした「揺らぎ」については、ジグムント・バウマン『リキッド・ライフ』が参考になるだろう。
このとき、人生における失敗は「○○力」を高められなかった個々人の責任になる。嫌な時代になったものだ、と思うかもしれない。だが逆に、世に喧伝(けんでん)される「○○力」とは、いま何が揺らぎ、何が新たに作り直されようとしているのかをまさに示しているのだとも考えられないか。そう観察するならば、世にあふれる「○○力」は、私たち(の社会)の現地点を教えてくれる「ナビ」に姿を変えるのだ。
◇
【代表例:聞く力】
阿川佐和子著、文藝春秋、2013年刊
<「BOOK」データベースより>
頑固オヤジから普通の小学生まで、つい本音を語ってしまうのはなぜか。インタビューが苦手だったアガワが、1000人ちかい出会い、30回以上のお見合いで掴んだコミュニケーション術を初めて披露する―。
<「○○力」について:大使寸評>
「○○力」ものとしては、赤瀬川原平『老人力』を嚆矢とするが、歴代「○○力」もののトップだと思うわけで、やはり言った者勝ちというか・・・コロンブスの卵のような衝撃があったのです(笑)
昨年のベストセラー1位は阿川佐和子『聞く力』だったそうだが、まだやっていたのか・・・
このような「柳の下のドジョウ」式販売戦略について牧野智和さんは、どのように考察(断罪)するのか?という興味があるわけです。
・赤瀬川原平『老人力』
・渡辺淳一『鈍感力』
・姜尚中『悩む力』
・池上彰『伝える力』
・経済産業省「社会人基礎力」
・阿川佐和子『聞く力』
牧野智和さん曰く・・・
「自己コントロールのチェックポイントが増えるというのは、自分を窮屈にしてしまいかねない。鈍感であることをあえてコントロールする、日々の言葉一つ一つに気を配る、異性に愛されるような振る舞いを意識的に行う、等々。これらは、自分の心の内に「あそび」をなくしてしまうような気がするのだ」・・・・卓見ですね。
だったら、「あそび」そのもののような「老人力」が1枚上ということでしょうか(笑)
冗談はさておいて・・・
「○○力」や「○○道」にいそしむ日本人の拘り、凝り性が見えるような気がします。
『聞く力』vs『老人力』byドングリ
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こころ朗らなれ、誰もみなより
<優しく暖か 新たな作家像:福岡伸一(青山学院大学教授)>
まず、なんといってもこのタイトルが実にすがすがしく、かっこいいではないか。原題は、God Rest You Merry,Gentlemen。新潮文庫の高見浩訳では「神よ、男たちを楽しく憩わしめたまえ」となっている。ともすれば、マッチョなイメージの強いヘミングウェイだが、翻訳の名手、柴田元幸は一風変わった物語ばかり19を選び、軽やかに訳してみせた。
柴田訳の極意は、原文の言葉をできるだけその出現順に忠実に日本語に置き換える、というところにあると思う。英語と日本語の構文の差の性格上、その操作は短い文の連なりとなって表れる。それが自然に、シンプルなリズム、やわらかな情感、そこはかとないユーモア、暖かい空気となって立ち上がってくる。
クリスマスに病院に集うどこか壊れた人々に注がれる優しい眼差し。ヘミングウェイはほんとうはこういう作家だったのかもしれない。そんなことを気づかせてくれる素敵な短編集。
◇
アーネスト・ヘミングウェイ著、スイッチパブリッシング、2012年刊
<内容紹介より>
名翻訳家、柴田元幸の選と訳により、アメリカを代表する作家、ヘミングウェイの決定版となる短篇集。
戦争後遺症、釣り、男女の恋愛、旅など様々なテーマで70以上の短篇を残したヘミングウェイ。その中から、傑作と言われる「殺し屋たち」「清潔な明かりの心地よい場所」、小説家ガルシア=マルケスが最も影響を受けたという「雨のなかの猫」、亡くなる直前に書かれた未完の「最後の原野」を含む19の短篇を収録。
<読む前の大使寸評>
今さらヘミングウェイでもないだろう、という気がしないでもないが・・・
福岡伸一さんの書評はどんなだろう?と興味がわくのです。
なるほど、翻訳者、翻訳構文に注目するわけか♪・・・・
とにかく、朝日デジタルの書評では福岡伸一さんから目が離せないのです♪
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<asahi.comのインデックス>
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