<『愛なき世界』1>
図書館に予約していた『愛なき世界』という本を待つことおよそ8ヶ月でゲットしたのです。
三浦しをんと言えば、オッサンのようなエッセイを書く人との印象が強かったけど・・・
長篇小説もいけてるでぇ♪
・・・ということで、その語り口をちょっとだけ見てみましょう。
【愛なき世界】
三浦しをん著 、中央公論新社、2018年刊
<「BOOK」データベース>より
恋のライバルは草でした(マジ)。洋食屋の見習い・藤丸陽太は、植物学研究者をめざす本村紗英に恋をした。しかし本村は、三度の飯よりシロイヌナズナ(葉っぱ)の研究が好き。見た目が殺し屋のような教授、イモに惚れ込む老教授、サボテンを巨大化させる後輩男子など、愛おしい変わり者たちに支えられ、地道な研究に情熱を燃やす日々…人生のすべてを植物に捧げる本村に、藤丸は恋の光合成を起こせるのか!?道端の草も人間も、必死に生きている。世界の隅っこが輝きだす傑作長篇。
<読む前の大使寸評>
三浦しをんと言えば、オッサンのようなエッセイを書く人との印象が強かったけど・・・
長篇小説もいけてるでぇ♪
・・・ということで、その語り口をちょっとだけ見てみましょう。
<図書館予約:(11/25予約、7/13受取)>
rakuten愛なき世界
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この本の語り口を、見てみましょう。
p14~17
<1>
切った野菜を明りに透かして、すごいなあと見入ってしまうことがある。どれもこれも、だれかが設計図に基いて作ったみたいなに、うつくしく精妙だ。野菜ばかりではなく、魚の内臓の配置、骨の形、目玉や鱗の質感も。
生き物を食べてるんだな、とそのたびに藤丸は感じる。こんなにきれいな仕組みと体を持った野菜やら魚やら肉やらを食べて、俺たちは生きてるんだ、と。なんだかおそろしいような気もする。
藤丸はうまく言葉にできずにいるが、つまるところ、死と生をつなぐものだから、料理という行為が好きなのだ。
さて、料理一徹の師匠円谷を見習い、すっかり料理バカと化して、休日も食べ歩きや自室での実作に夢中になっている藤丸だが、交際面ではどうかというと、これが円谷に似ずさっぱりときた。
「藤丸くんも、たまにはデートぐらいすればいいのに。だれかいないの?」
と、隣にあるクリーニング店のおばちゃんにも心配されるぐらいだ。藤丸としては、仕事が充実しているし、特に気になるひとがいるわけでもないし、現状に満足している。
常連客のおじさんは、
「この店はほんと、名前倒れだよなあ。大将もやっとのことで、はなちゃんとつきあえるようになったんだよ。このひと、実際はそんなにモテないから。口ほどにもない」
と言った。
「うるせえな」
円谷が厨房から顔を覗かせた。「とっとと食って、ちゃちゃと帰れ」
夜の営業時間帯は比較的すいているというのに、客を急きたてる。フロアに出て接客をしていた藤丸は、おじさんの要望に応え、グラスの白のおかわりをテーブルに運んだ。おじさんはアジフライをつまみに、ちびちびとワインを飲むのが好きなのだ。
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この本も
三浦しをんの世界R7に収めておくものとします。