図書館で『ジャンク・フィクション・ワールド』という本を、手にしたのです。
ぱらぱらとめくってみると・・・
宇宙戦争、タイムマシン、地球空洞説など、目くるめくジャンク・フィクションが並んでいて、楽しそうな本やでぇ♪
【ジャンク・フィクション・ワールド】
風間賢二著、新書館、2001年刊
<「BOOK」データベース>より
ドラキュラ、フランケンシュタイン、宇宙戦争、タイムマシン、地球空洞説、アトランティス…ホンモノの小説は遠慮会釈なく面白い。
【目次】
『吸血鬼ドラキュラ』は単なる怪奇小説じゃない!/火星人は人類の末裔?/人間は猿か天使か?/“邪視”を持つ男の物語/アイデンティティのエントロピー状態/地球の中はカラッポ?/失われた世界を求めて/海がこわい/最後に合理が勝つ?/恋愛という病を伝染させる小説群〔ほか〕
<読む前の大使寸評>
ぱらぱらとめくってみると、宇宙戦争、タイムマシン、地球空洞説など、目くるめくジャンク・フィクションが並んでいて・・・楽しそうな本やでぇ♪
rakutenジャンク・フィクション・ワールド
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ハードボイルドが語られているあたりを、見てみましょう。
p150~154
<ハードボイルドは、ひとつのライフ・スタイルだ>
■英米ミステリの違い
今日まで引き継がれている謎解きストーリーのパターンや名探偵というキャラクターを創造したポオはアメリカの作家だが、先に述べたホームズやポアロといった世界中の人々が知っている探偵が造形し、ポオの衣鉢を継いだ論理パズルとしてのミステリ小説を発展・浸透させていったのはイギリスだった。
すなわち、上流階級の世界に起こる奇怪な殺人事件を田園地方の別荘を舞台に、英国紳士然とした頭脳明晰な探偵と犯人との知恵くらべを語ることで、混沌と化した世界に秩序を取り戻す一群の“古典的探偵小説”のことである。
もちろん、そうした書斎の“知的遊戯”としてのミステリは、偉大なる先達ポオを排出したアメリカでも創作されなかったわけではない。たとえば、S・S・ヴァン・ダインやエラリー・クイーンがいる。だが、名探偵が難解な謎を快刀乱麻のごとく解き明かすイギリス十八番の論理パズルものに匹敵するアメリカ独自のミステリ小説といえば、なんといっても、私立探偵が頭より身体を張って事件に挑む、ハードボイルド小説だろう。
そのサブ・ジャンルであれば、アメリカでも名探偵ホームズやポアロ、ミス・マーブルと比肩する高名な私立探偵にことかかない。たとえば、サム・スペード、フィリップ・マーロウ、リュウ・アーチャー、そして昨今流行りの女私立探偵V・I・ウォーションスキーなど。
この英米の違いは、ミステリ小説の黄金時代といわれる二つの世界大戦の狭間、1920年代と30年代を中心に考えてみるとよりはっきりする。その時期、イギリスでは、論理パズルのしかけを人代表するアガサ・クリスティによって、ポオの伝統を継承する、知的かつ様式化された本格的謎解きものが古典的なジャンルとして確立された。かたやアメリカでは、パルプ・マガジンを代表する探偵小説専門誌「ブラック・マスク」の登場により、反ポオ的…反理知的なタフガイ小説が人気を獲得し始めている。
(中略)
いっぽう、アメリカでは、そうした現実逃避型論理パズルを否定し、荒廃した現実を真っ向から見つめる、きわめてリアルなタフガイ小説…ハードボイルドが隆盛を誇ることになった。このことにはふたつの理由が考えられる。
ひとつは、ヘミングウェイ、スタインベック、フォークナー、フィッツジェラルド、ドス・パソスといった当時の純文学の作家たちが有した時代の感受性…社会の不正・悪を糾弾しようとする精神、すなわちアメリカ自然主義運動の勃興と同時期であったということ。
もうひとつは、1929年10月のウォール街に端を発した大恐慌時代にあって、頽廃した資本主義社会における物質至上主義の悪が露顕し、同時に迫り来る二度目の大戦を目前にして、人々がこの世は情け容赦のない死と暴力の世界だという認識を深めていったためである。
実際、当時のハードボイルドほど、この世の死と暴力、アメリカ社会の頽廃と悪とをリアルに語っているジャンク小説はない。そして、このミステリのサブ・ジャンルを定型化した作家として名高いのがダシール・ハメットだ。
■フィジカルな探偵によるメタフィジカルな寓話
ハメットは、先述した安価な大衆娯楽雑誌「ブラック・マスク」が育てた作家だが、彼の代表作のひとつに『マルタの鷹』(1930年)がある。この作品、過去に三度も映画化され、そのうち、名匠ジョン・ヒューストンが脚本と監督を手掛け、ハンフリー・ボガートが主役の私立探偵サム・スペードを演じた、三度目の映画化作品(1941年製作)がとりわけ有名なので、内容をご存じの読者もいるだろうが、とりあえず簡単に記しておこう。
スペードと相棒のアーチャーが経営する探偵事務所に若くて美貌の女性が依頼人として現れる。そのワンダリーと名乗る美女によれば、妹がフロイド・サースビーという謎の男に連れ去られて家に戻らないという。そこで、フロイドを捜査して、妹の居場所をつきとめて欲しいというのが依頼内容だ。
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『ジャンク・フィクション・ワールド』1:『不思議の国のアリス』