図書館に予約していた『カザアナ』という本を、待つことおよそ半年でゲットしたのです。
おお 監視社会化の進む閉塞した時代という近未来がどんなものか・・・興味深いのです。
【カザアナ】
森絵都著、朝日新聞出版、2019年刊
<「BOOK」データベース>より
平安の昔、石や虫など自然と通じ合う力を持った風穴たちが、女院八条院様と長閑に暮らしておりました。以来850年余。国の規制が強まり監視ドローン飛び交う空のもと、カザアナの女性に出会ったあの日から、中学生・里宇とその家族のささやかな冒険がはじまったのです。異能の庭師たちとタフに生きる家族が監視社会化の進む閉塞した時代に風穴を空ける!心弾むエンターテインメント。
<読む前の大使寸評>
監視社会化の進む閉塞した時代という近未来がどんなものか・・・興味深いのです。
<図書館予約:(9/21予約、3/18受取)>
rakutenカザアナ
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第1話「はじめに草をむしる」の語り口を、見てみましょう。
p23~25
<1>
<庭を美化して以来、喧嘩の絶えなかった我が家は何故だか平和である。これが噂のミラクルか?>
<もはやお別れするしかないとあきらめていた枯れ木が、カザアナさんのpかげで生命の光をとりもどしました。農薬も使わずによくぞここまでと家内ともども感嘆しております>
<三ヵ月待ち・・・うーむ、と、うなった! でも、待った! 待ってよかった!>
<正直、こちらの「お客さまの声」を眉唾物と思っておった者ですが、ものは試しで発注した結果、今では己の猜疑心を恥じ入っております。疑り深い老人を謙虚にする、これも数あるミラクルの一例でしょうか>
驚いたこと、その一。
カザアナは東京の小金井市に本社を置いている実在の、それも人気の造園会社だった。HPの書きこみはのきなみ高評価で、中には半年待ったという声もある。
気になるのは、ちょこちょこ目につくミラクルって言葉。これはどういう意味なのか。
驚いたこと、そのニ。
会社のHPでは三人の代表取締役が紹介されていて、その全員がまだニ十代という若さにとまどいながら写真に目をこらすと、なんと、そのうちの一人はあの岩瀬香瑠さんだった。
しかも、ざっくり記されている会社の沿革を見るに、開業はわずか三年前。設立当初はたった三人だったスタッフが、今では五十人を超えている。いくら景勝景気で業界全体が潤っているとはいっても、この躍進ぶりはミラクルだ。
・・・と、カザアナのことを知れば知るほど、香瑠さんは仕事には困っていないはずで、となると、なんで中学生相手に営業なんかしなきゃならなかったのか、またも疑問がわいてくる。
なにがなんだかわからない。
それでも、迷った末にあたしがカザアナへ電話をかけたのは、やっぱり心のどこかで何かしらのミラクルを期待していたせいかもしれない。
驚いたこと、その三。
長いウェイティングリストがあるにもかかわらず、それを飛びこして香瑠さんは翌日、早速、うちへ見積りをとりに来てくれた。
<2>
一気に春が押しよせてきた晴天の朝、約束の十時にインターホーンが鳴って、あたしが玄関のドアを開けると、そこにはHPで見たカザアナの代表三人が顔をそろえていた。
「はじめまして、カザアナの天野照良と申します。ジョブネームはテルです。このたびはお見積りのご依頼をありがとうございます」
「同じく、カザアナの虹川スズ、ジョブネームは鈴虫です。どうぞよろしくお願いします」
「改めまして、岩瀬香瑠です。ジョブネームはそのまま香瑠です」
ぬうっと背の高いテルさんと、小柄なおだんご頭の鈴虫さん、そして中背の香瑠さん・・・なんともでこぼこな三人に、あたしは視線をジグザグさせながらじーっと見入ってしまった。
身長は全然ちがうのに、なんというか、醸しだされる空気観が似ている。天からの陽を顔いっぱいに浴びたテルさんの笑顔は太陽そのものみたいで、香瑠さんと同様、やっぱり男の人の匂いがしない。なぜか顔じゅうに土をつけている鈴虫さんからは女どころか大人の匂いすらしない。我が家の玄関先に異次元のどこかへつながる真空がぽっかり開けたみたいだった。
「お庭、ざっと拝見しましたが、なかなかの密林っぷりですね」
「特Cエリアに、今どきこんなワイルドなお庭が残されていようとは・・・」
「よく景勝部員が野放しにしてくれましたね」
不思議な来訪者に呆けるあたしとは裏腹に、三人は背後の庭に視線をめぐらせ、早くも仕事モード全開だ。
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