図書館で『ガン入院オロオロ日記』という本を、手にしたのです。
胃を全摘出した者としては、この本には切実な関心が湧くのでおます。
ところで、この本を借りるのは2度目だと判明したので(またか)その3とします。
【ガン入院オロオロ日記】
東海林さだお著、文藝春秋、2017年刊
<「BOOK」データベース>より
病院食、ヨレヨレパジャマ…見るもの聞くもの、すべてが目新しい。おや、なんだか面白くなってきたぞ。堂々四十日!
【目次】
初体験入院日記/官能で「もう一度ニッポン」/大冒険水陸両用バス/粉もん大好き/〆切り5分前/ミリメシはおいしい/流行語大研究/初詣はおねだりである/「肉フェスティバル」は肉爛漫/そうだ、蕎麦食いに行こう/分類学入門/ガングロを揚げる
<読む前の大使寸評>
胃を全摘出した者としては、この本には切実な関心が湧くのでおます。
rakutenガン入院オロオロ日記
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「廊下ガラガラ」
まず、入院生活の友ともいうべき「廊下ガラガラ」を、見てみましょう。
p28~32
<病院は不本意でいっぱい>
「入院生活って寝ているばかりだから、ヒマでヒマでしようがないでしょう」
とは、入院したことがない人がよくする質問で、それに対して、
「それがどうしてどうして、朝から晩までやることがいっぱいあって忙しくて忙しくて」
と、入院経験者は答えるのが常だが、
「でも、どう考えてもそんなに忙しいはずないじゃないか」
と、未経験者はどうしても思ってしまう。
こうして自分が経験者になってみると、入院患者が忙しいことがよくわかる。
毎日毎日、日課がびっしり。
“廊下ガラガラ”も日課の一つなのだ。
これをやらないと、自分でも驚くほど筋力が衰える。
宇宙飛行士が3ヵ月ぐらい経って地球に戻ってくると自力では立ち上がれないというがあれに近い。
そういうふうに聞かされていたので、ぼくは毎日必ず1時間は歩くことにしていた。
このことによって、脚力はそれほど衰えずに済んだのだが、入院してから二十日ぐらい経ったころ、ペットボトルのフタを開けようとしたらどうしても開かない。
と思いつつ、よく考えてみたら、指の力が衰えていたのだった。
脚力には注意していたが、腕力および指の力の低下にまでは考えが及ばなかったのだ。
そういうわけで、日課の一つとして脚力強化に1時間(午前中30分と午後分)取られる。
こうした様々な日課が数かぎりなくある。
手術で弱くなった肺機能強化のための機具(ハイッ、思いっきり吐いてーッ)の逆の、(ハイッ、思いっきり吸ってーッ方式)を使って、ヒマさえあればこれをやるように言われているのでヒマさえあればやる。
手術後の感染予防のための「蒸気式うがい器」を午前一回、午後一回やる。一回の所要時間十数分。
入院生活の朝は早い。朝7時には起きていなければならない。
看護士さんが体温と血圧を測りにくる。
担当の看護士さんが若くて美しい場合は、事前に鏡を取り出して櫛で髪を整えておかなければならない。
櫛が見付からないときもあって、そういう場合はあちこちのひき出しを開けたり閉めたりしなければならないことになり、いろいろと忙しい朝となる。
体重を量るのも朝。
病室から出て、ナースステーションの前に設置してある体重計まで量りに行く。量って名簿の自分の欄に体重を記入する。
もちろん、その場合もガラガラが同行する。
ちょっとそこまでだから置いて行こうか、とも思うのだが、点検の管やおしっこのドレーンやら計器のコードなどが繋がっているので置いて行くということは事実上ありえない。
ときどきその存在を忘れ、用事をふと思い出して立ち上がって歩き出してもちゃんと付いてくる。
離れて暮らす、ということはありえないのだ。
朝刊を買いに売店に行く。
もちろん同伴である。
(中略)
五日に一度ぐらいの割り合いで、腹部のレントゲン検査があったり、血液検査があったり、そういうときは外来患者といっしょに検査室の前の廊下で何十分も待ったり、部屋に戻ってきてすぐ朝食、歯をみがいて、すぐ肺機能訓練器に取りかかり、吸ってー吸ってーをくり返し、そのあとガラガラを引っぱって歩いて部屋に戻ってくると、おー、もう昼食か、ということになる。
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ちなみに、この廊下ガラガラの正式名称は点滴スタンドとかガートル台というそうです。
『ガン入院オロオロ日記』2:ミリメシp135~138
『ガン入院オロオロ日記』1:ガン入院の顛末p17~20