読書記録 『チョコレート工場の秘密』
【中古】 チョコレート工場の秘密 ロアルド・ダールコレクション2/ロアルド・ダール(著者),柳瀬尚紀(訳者),クェンティンブレイク(その他) 【中古】afb2016年7月12日★★☆☆☆『チョコレート工場の秘密』 ロアルド・ダール 評論社 『 Charlie and the Chocolate Factory 』 Roald Dahlダール氏は世界的に人気で、日本でもたくさん翻訳本が出されている児童文学作家だ。代表的なものの一冊がこれ。チョコレートは、世界の子供たちが最も好きなお菓子の一つだ。大人の私でも、読んでいる間、あの甘~い香りに包まれ悩まされてしまった。そのお菓子を生産する世界一大きなチョコレート工場が、自分の町に建っている、それでもって毎日毎日その香りを我慢しなければならないなんて、成長期の子供にとって言葉では表現できないくらいつらいでしょう。ましてや、主人公・チャーリーは、極貧困生活真っ只中にある少年だ。常にあの甘い誘惑と戦わなければならない。朝はマーガリン付パン、昼はゆでジャガイモとキャベツ、晩はキャベツの煮汁。毎日これである。肉がないではないか!!雪の積もる冬は、殊更寒風が骨身に染みるだろう。チャーリーは、子供ではあるが自分の境遇にしっかりと向き合い、空腹を自制しながら生きている。人生を悲観するわけでもなく、薄給の父親を責めるわけでもなく、全てを受け入れ、高齢の祖父母4人と両親と共に暮らしている。ともすると、世間では虐げられてしまう存在の寝たきりの祖父母たちにも対しても、彼の愛情はとても深い。事の起こりは、甘い香りに包まれた世界最大のチョコレート工場より世界に向けて発表された声明からだ。 “ ワンカの板チョコの包み紙の下に「黄金切符」が入っている。全部で5枚。それを手に入れた5人の児童を工場見学に招待する。全員に特別プレゼントとして、一生分のチョコレートとキャンディを進呈。”というものだった。最高に美味しいチョコレート以外にも、奇想天外なお菓子を開発する不思議な不思議な工場を見学できる!!チャーリーにとって、チョコレートとは一年に一度だけたったの一枚、誕生日にプレゼントされるもの。何日かはただ見つめるだけ。それからちょっぴり出しては齧り、出しては齧りで一月以上ももたせるという唯一の贅沢食品なのだ。ちょうど誕生日の近いチャーリーは、両親にプレゼントされたのだが…。「黄金切符」が誰かの手で開封されるたび、世界的なニュースになる。一人は強力ポンプでふくらましたようなでぶでぶの少年・オーガスタス。一人は大都会で何不自由なく贅沢に暮らすナッツ会社の社長令嬢・イボダラーケ。三人目はしゃべる時もクチャクチャとガムをかみ続けるお行儀の悪い少女・バイオレット。お次はドンパチギャング映画が大好きなテレビっ子・マイク。そして、…最後の5人目は招待日の前日に、拾ったお金で買ったチョコレートに入っていた「切符」を引き当てたチャーリー。さて、こうしてみると、どの子も一癖も二癖もありそうである。その子供たちと保護者を迎えるのは、これまた一風変わった人物・ウィリー・ワンカ氏。そして、ウンパッパ・ルンパッパ人という普通の大人の膝までの背丈しかない小さな男たちだ。沢山の部屋があり、その中では様々な発明的なお菓子が生産されている。不思議な部屋に通される度、ワンカ氏は一言注意を与える。その「注意を聞かない子供」と「止める事ができなかった保護者」の一人一人が、彼らにふさわしい罰を与えられ脱落していくのだ。実は、ワンカ氏の招待状に注意事項が書かれてあった。 “ 家族の一人か二人なら、いっしょに来てけっこうです。きみに付きそって、きみがいたずらをしないように見ていてもらうためです。 ”「チョコレート室」では、ワンカ氏が許可した魅力的なお菓子が周りに沢山あるにも拘らず、チョコレートに目がない少年は許可されていないのに食べてしまう。「発明室」では、画期的だがまだ試作中のガムを、“吐き出しなさい”と言うワンカ氏を無視し、これもまたガム大好きな少女は我慢できず口に入れてしまう。「クルミの部屋」では、ワンカ氏が“おゆずりできません”と告げたが、欲しくて突進していってしまった少女もいた。「テレビ・チョコレート」では、ワンカ氏は、“危険物がごろごろしていますから、ぜったいにいじくらないように”と注意している。が、すごい発明に興奮し、駆けだした少年を誰も止めることができなかった。それらはある意味、子供ならではの行動なのかも知れない…が、その行動を戒め、制御するべき大人が自分の子供であるのに全く抑えることができない。結局、彼らは大きな代償を払わされる。ここで重要なのは、チャーリーにしろ付き添いのジョウじいちゃんにしろ、生きていく上での最も重要で重大な欲求である「空腹」を、彼らは冷静に受け止め落ち着いていることだ。密封された空間にどれだけの甘い匂いが閉じ込められているか。なのに、この我慢強さは驚くほどである。他の子供たちが自分たちの欲求を全く自制できず、飛び出しているというのに。ワンカ氏が子供たちに求めた物。それは何か。自分の欲求に負けない、冷静な判断が下せる自制心…なのかもしれない。我慢ができない子供たちが溢れているこの世の中。一体誰がそうさせたのか。本人の資質?環境?甘やかす親?ここでは、親も一緒に罰せられる。私も二人の子供の親である。ひょっとしたら、私たちも不思議な部屋に案内された時、しっかりとコミュニケーションをとっていないとどんな落とし穴に落ちるかわからない。Wow、身が引き締まる思いである。