9月30日 とうとう予定日
【9月30日 予定日】 AM12時やっぱりこの日も 『体力温存のために寝て下さいね』と言われる。促進剤も打っていて、遠のきながらも陣痛はきている。なのになのに、やっぱり夜は寝ないといけないの?次々に部屋に入ってくる妊婦さん。次々に聞こえてくる産声。私が貸切でこの陣痛室に来てから、何人の人が来て赤ちゃんを産んでいったかな。何で私だけ寝させられるんだろう?忘れられてるんじゃないのかな?一睡もできずに、おまけに独りでいきみを我慢しながら過ごした。 AM7時。朝食を持ってきてくれるけど、食欲なんてない。まわりは次々と産んでいくのに、何で私はと思うと自信がなくなってきて精神的にも参ってしまった。 『たくさん食べないと体力つかないよ。ほら頑張って。』そうだ。annのためにも食べて力つけないと。どうにかこうにかヨーグルトとバナナを少しだけ口にすることができた。 AM10時。おばちゃんと従妹が来てくれる。仲良しの従妹は、一年前の今日、女の子を産んだ。今日中にannが生まれれば同じ誕生日だ。一緒に誕生日を祝って楽しいだろうな。そんな理由で何としてでも今日中には産むんだと決心する。ドクターが来た。あっ!このドクターは健診であたるたびにイヤな思いをさせられたあのオッサンだ!しかもチョロチョロ破水の原因にもなったかもしれないパチン音の犯人だ!内診をされるが、これまたグリグリと痛いったらありゃしない。もう叫ぶ、叫ぶ! 『いきんでみて』ん?いきんでみろだと?この陣痛室で?ここで生まれたらどう責任をとってくれる!けど仕方ないからウ~ンと頑張ってみた。薄笑いを浮かべたオッサン、 『促進剤を増やして』と指示している。軽く倍は増やされた。5分おきくらいに陣痛がくるようになったがやっぱりannが下りてきてなくて分娩室には行けない。 PM4時頃。どういう理由だか、分娩室に行けることになった。でも他の妊婦さんの陣痛時の必死な様子と比べて、私は苦しいなりにもどこかで冷静さが残っていた。ウンコ出たらどうしようとか、裂けるんだろうな、痛いだろうなとかばあちゃんに『出産は黙ってするものです』と言われていたから、そうしなきゃなとか、いろんな事を考える余裕があった。こんな素の状態で出産する恐怖もあった。担当医はあろうことにあのオッサンだった。助産婦はまるでジャイアンのような女の人と、昔私のお客さんだった女の子。こんな所で顔を合わせるとは・・トホホ。その他助産婦のタマゴさんたちが数人いた。ドクターのタマゴらしい男の子も一人いたな。内診してもらうと、どうもannは恥骨に頭をひっかけていて出てきにくいらしい。 『母子共に危険な状態になれば緊急帝王切開になります』という言葉に目を輝かせたけど、まったく危険な状態ではないっぽい。「もういいから帝王切開にして~!」と言いたいのを必死でこらえる。annはこんな状況下でもノンキにお腹を蹴っている。長い陣痛にもめげない。あくまでもマイペースで元気、それはそれで安心した。問題は私の体力だ。オッサンには 『本当にいきみたい感じはあるの?』なんて言われるし。そう言われてしまうと本当はどうなのかよく分からなくなる。それに相変わらずどこか冷静な自分がいる。 『力を入れすぎたら裂けるしな、痔になるのもイヤだし』とか考えている。いきむ私の顔とannの出口を交互に見る学生もいた。気が散って仕方なかった。だいたい今から産みますという時に気が散る時点で、どこか違うような気がするんだけど・・。そんなこんなで頑張っていると、下半身にチクッと注射をされたのがわかった。あ・・切開するんだな。もうどうにでもなれ!開き直ったものの、出てくる気配はない。下で激痛が走る。オッサンが何やら小細工をかましているんだな!どうやら手で引っ張り出している様子。痛い。切開したのか裂けたのか、もうわからなかった。それでも出てこないann。まだお腹にいるつもりだったのかもしれないけど、こうなったら出てきてくれなきゃ困る。とうとうオッサン、陣痛の波と同時に私のお腹をギュウギュウと体重を乗っけて思いっきり押し始めた。何度も何度も繰り返す。息が出来なくてすごく苦しい。 『先生!息ができません!ムリムリムリムリムリー!!!』叫んでも手を抜いてくれない。これは窒息して死ぬと思った瞬間、頭が出た。続いて肩まで出てきた。 『あとは自分の力で出してー』死んでもいいくらいの覚悟でウ~ンと頑張った。次の瞬間、足が出てきて、元気な産声が上がった。泣いた、ちゃんと元気に泣いたよ!生まれたよ!すぐ私の胸に来て抱っこさせてくれた。 『ごめんね、しんどかったね。頑張ったね。』これがannに話しかけた第一声だった。温かくてふにゃふにゃした体。口をとがらせてお乳を探している。男の子だからか、私に似ている。何とも言いようのない優しい気持ちに包まれた。なるほど、自分の命より大切なものってこれなんだね。すぐ夫も呼ばれ抱っこしたようだ。annの名前を呼んでいるのが聞こえる。後から聞くと、感激で涙が出たらしい。赤ちゃんが出た途端、痛みなんて吹っ飛ぶわ~って聞いていたけど、飛ばない飛ばない!それから後産、縫合と痛いことばかり。遠くで助産師が 『切開したけど、さらに奥がビリビリ』とかなんとか言っているのが聞こえてきた。おまけに縫合はドクターのタマゴがモタモタやっている。しばらくトラウマになりそう~。でもあのイヤだったオッサンのお陰で無事に産むことができた。感謝の気持ちでいっぱい。そして、私を母にしてくれたannに感謝! ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●妊娠期間:妊娠40週0日娩出日時:平成17年9月30日 午後6時56分所要時間:66時間4分体重:3,325グラム身長:50.4センチ胸囲:32.7センチ頭囲:32.5センチ無事に男の子を出産しました。 ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●