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カテゴリ:民話
フィリピンの「サルカメ合戦」 |
付録: 縄文時代における採集生活 必須単語 「貝」「ハマグリ」「カメ」などの語源について 以下では、他の水生動物、「貝」「ハマグリ」「カメ」などの語源について考察します。「貝」「カメ」は、村山説では未検討で、私の知る限りではオリジナルの考えです。 「貝」の語源 各地に残された貝塚から知られるように、貝は、古代日本人の重要な食料源でした。「貝」の語源も、AN語起源であるハズなのです。 「貝」はkapi (LH)です。私の知る限り、村山は「貝」の語源について論じたことはありません。本論でも何回か指摘しましたが、村山師匠は、西マラヨ・ポリネシア語群のうち、特にインドネシア諸語と日本語の関係を重きを置いたからではないかと、私は勝手に推測します。インドネシア諸語には、日本語「カヒ」(貝)に対応する語は見つからないのですが、フィリピン諸語には、以下のような興味深い語例を見出す事ができます。
まず注目されるのは、タガログ語の、 kabi'bi で、これはどー考えても日本語の「貝」(kapi ; LH)と同源でしょう。 タガログ語のこの単語は「殻」の意味もあるのですが、日本語の「かひ」にも「殻」の意味がありました。古語で「かひご」と言えば「卵」の意味で、「かひ」は「殻」を意味します。(「岩波古語辞典」などによる。) 語形・アクセント・意味が三位一体で良く一致します。 他のフィリピン語を見ると、KAL(Limos Kalinga語)の lukkob は、後半の語形 kob が、タガログ語 kabibi ( lt; *kapi ?)と関係ありそうですが、自信はありません。 イロカノ語には、明らかにタガログ語と関係ありそうな kappi があるのですが、これは意味が「カニ」です。もしかしたら、kapipi あるいは、kabibi は、元は「殻を有する水生動物」という原義だったのが、両言語で「貝」と「カニ」に意味が分離した可能性が考えられます。(語例のデータが少ないので仮説です。) 脱線: 「栗」と「ハマグリ」の語源 上の例は、日本語がインドネシアよりはフィリピン諸語との関係が深いことを意味するものと考えられます。ゴチャゴチャしたのでまとめると、以下の表のようになります。
タガログ語には、ku'lit(頑固な)という、一見日本語と関係なさそうな語があるのですが、インドネシア語との比較から、デンプウォルフは、祖語 kulit (「外皮」)を再構しています。これは、日本語の「栗」(LL)と同源と考えられます。(アクセントは不一致。) 「栗」は縄文時代の日本人の主食のヒトツでした。三内丸山遺跡周辺の栗の木を調べたところ、遺伝子が自然にあるものよりも均一である事から、栗が縄文人によって「栽培」されていたのではないかと推定された事は、記憶に新しいところです。 この対応が正しければ、「栗」の原義は「皮」です。少なくとも私には非常にもっともらしく思えます。「栗」はAN起源の「縄文語」と推定されます。 更に言うと、「浜(ハマ)」(pama; LL)は、多分、タガログ語の「川岸」(pampa'ng)と同源で(デンプウォルフは「河口」と訳している)、「ハマグリ」の原義は、「浜にいる栗に似た貝」という事になります。これも私には非常にもっともらしく思われます。 「縄文語」などというと、今の日本語と全く異なったエキゾチックなものを想像するかもしれませんが、こういう語例を見ると、いくつかの音韻対応を頭に入れておけば、もしかしたら、けっこう、なんとか、縄文人と会話する事は可能なのではないかなどと空想してしまいます。 「亀」の語源について 前に「フィリピンのサルカメ合戦」で書いたように、カメのAN祖語は、pn~u'h ですが、何故かこの語は日本祖語には入りませんでした。村山説では、前鼻音化形の mani が、「占い」の古語=「フトマニ」=「大亀」の中に痕跡的残っているとするのですが、ここでは「亀」(kame2)の語源がAN語で解けるかどうか検討します。 「貝」に話しを戻します。 kapi が日本語で「殻」の意味を持ち、フィリピン諸語で「殻を持った水棲動物」の原義だったとすると、「カメ」もまた、この語から派生したのではないかと想定するのはさほど唐突なことではありません。実際、AN祖語の「殻」という単語が、タガログ語では「カメ」に意味変化しているワケですから。 「亀」も「殻を持った水棲動物」です。私は、kame2 は ka+me2 と分解され、me2 を、「トリ」の語源(スズメ、カモメ、ツバメなど)を考察した時に述べたように、「動物一般を指す接尾辞」と解釈します注)。 おそらく、 kapi (殻)+ me2(動物) gt; kapime2 gt; kamime2 gt; kaNme2 (A) gt; kame2 (LL) という合成語からの音韻変化で「カメ」が生まれたのではないかと考えます。アクセントも合います。 日本とフィリピンの説話で、一方が「カニ」、もう一方が「カメ」であるのは、原義に遡ると同一の語だったからと解釈することができます。 注) スキューバ・ダイビングしている時にカメが泳いでいるのを見たことがありますが、鳥が飛んでいるようにも見えます。神武記「速吸の門」の章で、「亀の甲に乗りて釣りしつつ打ち羽ぶき来る人、速吸の門に遇ひき。」という一節があります。これは亀の泳ぐ様を鳥になぞらえて形容する語とも考えられます。 以上、このページで考察した語彙のまとめ。 縄文時代の海辺における狩猟採取生活における必須単語。
やはりタガログ語を中心とするフィリピン諸語と日本語の一致が注目される。アクセントの一致も極めて良好。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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