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MUSIC LAND -私の庭の花たち-

「見果てぬ夢」NO.5(10,11)


「見果てぬ夢」10

「君は彼の子どもとして作られた。

彼の夢だったんだ。

人間のような子どもが欲しいと願っていた。

本当は人間との子どもが欲しかったんだ。エミリーとのね。」

「エミリーとは誰ですか?人間なんですね。

どんな人だったんですか?」

「私の妻、ベスの母だ。

ギルバートと私は、エミリーを争った仲だった。

親友だったのに、同じ女性を愛してしまったのだ。

エミリーは彼を愛していた。

だが、それは許されなかった。

それに彼女は母性豊かな女性で、

自分の子どもを欲しがったんだ。

彼はそのために君を作った。」

「それでは僕は父とエミリーの息子というわけですか。

僕はエミリーなんて知らない。

人間の子どもでなんかありたくない。

第一人間の子どもになれるわけがない。

人間の遺伝子など含まれていないのだから。

僕は純粋なロボットだ。」

「確かに君はロボットに違いない。

だがギルバートはそこまで本当は望んでいた。

だからせめて顔だけでもエミリーに似せようと努力したのだ。」

「僕はエミリーに似ているのですか? 

見たこともないから分からない。」

「ベスと君は良く似てる。ベスは母親似だからね。

似てると思わなかったかね。」

「今の彼女を知らないから、なんとも言えません。

昔は少し似ていたかもしれないが、

子どもの頃なんて、あてにはならない。

そんなこと客観的な証拠にはならない。」

「仕方がない。

私がギルバートから預かった遺書ともいうべき手紙だ。

肌身離さず持っていた。

私にとってはお守りのようなものだから。」

「そんなものがあるなら、

なぜ先にそれを見せてくれなかったんですか。」

「ギルバートに、私の他は誰にも

見せないようようにと書いてあったからだ。

だが息子の君になら、

ギルバートも許してくれるだろう。見たまえ。」

ジョンは変色してしまった手紙を渡した。

震える手で受け取るローリー。

初めて見る父の文字だった。

『親愛なるジョンへ。

私はもうすぐ狂うだろう。その前に君に書き残しておく。

私は放射能でプログラムが狂いつつある。

今に狂って消滅させられる。

だが、私にはやり残した仕事がある。

一つは残留放射能の研究。

そしてもう一つは、私とエミリーの息子としてのローリーだ。

君にローリーを託すわけにはいかない。

恋敵の息子を作るほど、君もお人好しではないだろう。

私もそれほど図々しくはない。

だが、同じ研究を続けてきた友として、

私の研究は引き継いでほしい。私にはもう時間が無い。

このまま狂って消滅させられるよりも、

狂う前に実験台となったほうがましだ。

今まで自分のプログラムの狂いを正確に記録にとどめてきた。

これもローリーを作るために、

自分のプログラムを分析したお陰だ。

自分が狂いつつあるということを発見したときは、

さすがにショックだったが、

放射能によるプログラムの狂いを確かめる材料として、

客観的に見つめられたのが、せめてもの救いだった。

自らを実験台にすることを心に誓ったのだ。

そして今最後の実験をしようとしている。

ドームの外の残留放射能の影響を身をもって実験する。

だがその結果を分析する事は私には不可能だろう。

君にお願いしたい事はそれだ。

今までの狂いと比較して、

どれだけ狂いが生じたか分析して欲しい。

君には酷かもしれないが、

私の最後の実験を見届けて欲しいのだ。

私が完全に狂ってしまえば、自動的に消滅させられてしまう。

その直前にプログラムを取り出してもらいたい。

難しいが、消滅警告の赤ランプが点灯したら、

すぐに私をドームの中に入れ、取り出すのだ。

君にしかこんな事は頼めない。

少しでもドームの外に出れば、放射能を浴び、死んでしまう。

私は出口にいるつもりだが、

狂ってしまえば何をするか分からない。

もし出口から離れてしまえば、

そのまま放って置いてくれ。

君が死んだら、エミリーを託す人がいなくなる。

研究はともかく、エミリーだけには、幸せになって欲しい。

私には子どもが出来ない。

たとえエミリーに似せて作ったとしても、それは外見だけだ。

中身はただのロボットに過ぎない。

たとえそれが優秀で、意志や感情で動く事が出来るとしても。

エミリ-の遺伝子が無ければ、子どもではないのだ。

私にはここまでしか作れなかった。

もっと時間があれば、

遺伝子まで組み込む事が出来たかもしれない。

そして、ロボットと人間が仲良く共存し、

愛し合う楽園を作りたかった。

もう夢だ。私には叶えられない夢。

せめてローリーにその夢を託したい。

君には世話になった。

またこんな事を頼むのは心苦しいが、

お願いできるのは君しかいない。

研究を続け、ドームの外でも生きられるようにして欲しい。

私のことはどうか伏せておいてくれ。

最後の誇りを守って欲しいのだ。

私が狂っていたことは、

エミリーにもローリーにも秘密にしてくれ。

プライドばかり高く、

見栄を張ると思われても仕方が無いが、

私には自分のプログラムの優秀さを誇るしか出来なかったのだ。

学習プログラムしか与えられず、

自分で身に着けていった知識と論理を。

優秀な科学者として、消滅したい。

私の消滅は事故だという事にしてもらいたい。

いろんな噂が出るだろう。

特に三角関係だった君には迷惑な噂もあるかもしれない。

済まないが、それくらいは

エミリーと引き換えに我慢してもらおうか。

だが、そんな噂もじき消えるだろう。

研究一筋の君ならば。皮肉ではない。

 君は優秀で信頼できる人間だ。

人間を軽蔑していた私にとっては、

君の存在は驚きだった。

そして、エミリーを愛せた事を神に感謝している。

今は神に代わって、人間が、

いやコンピューターが支配してる世の中だが。

神を信じていた人間がいた時代も、争いはあったが、

今よりましだったかもしれない。

今更こんなことを言っても仕方ないが、

せめて君とエミリーだけは、神を信じ、

絶望することなく、生きていって欲しい。

たとえこのまま人間が退化し、滅亡する日が来るとしても。

そのためにもこの研究を完成し、役立てて欲しい。

ドームの外に楽園を作るのだ。

そこではロボットと人間が平等に愛し合うことが出来るだろう。

そして、子どもが出来るようになるだろう。

私の叶わなかった夢だ。

 ジョン、エミリー、そしてローリー、私の夢を叶えて欲しい。

私の最後の願いだ。

そのためには喜んで私の身を捧げよう。

私はいつも見守っている。』

ローリーは、慟哭した。

涙が出ない分、心の底から、哀しみの声を上げた。

ジョンは声をかけることさえ出来なかった。

震える肩を抱きしめることしか。

ローリーはジョンを見上げた。許しを請うように。

「僕はどうしたらいいのでしょうか。

父の夢を叶えるどころか、反対に潰していたのです。

人間を憎み、滅ぼそうとしていたんです。」

ローリーに見つめられ、エミリーの眼差しを思い出したジョンは、

罪の意識にかられた。

「私の方こそ、憎まれても仕方の無いことをしてしまったのだ。

ギルバートの死後、私が彼を自殺に追いやっただの、

実験台に利用しただのと言われ、

ギルバートのプログラムの分析を途中で止めてしまったのだ。

正規の研究として認められなかった事もあるが、

それ以上に私自身が、人の目に耐えられなかったのだ。

特にエミリーの目に。」

そのエミリー似の目で、キッと睨むローリー。

「エミリーはなんと言ってたのですか。」

「何も言わない。ただ私を哀しそうな目で見つめるだけだ。

ギルバートの遺書を見せようかとも思ったが、それでは逆効果だ。

エミリーへの愛の証のような手紙は見せられない。

私はエミリーを失いたくなかったのだ。

たとえギルバートが消滅しても、

ギルバートへのエミリーの愛は残る。

亡くなった者には勝ちようがない。

やはりロボットには負けたくないという気持ちもあったと思う。

私は噂を黙って耐え忍び、消えるのを待った。

エミリーが哀しみのどん底にあるのを見守り、

助ける事で、彼女の信頼を勝ち取ったのだ。

愛情は分からない。

私と結婚したのも、ギルバートを忘れる為なのか。

 



ただ子どもが欲しかったのかもしれない。

ベスには愛情を注ぎ込んでいた。

ギルバートとの果たせぬ夢を、叶えたのか。」

肩を落としたジョンに、毅然とローリーが言い放つ。

「父の夢はそんな事ではありません。

あなたは許せないが、同情はします。

人間はやはり弱い。心も体も。

ドームの外の楽園など実現する前に、人間は滅亡するでしょう。

もう僕にはロボットを止める力はありません。

僕の研究もまだ途中なのです。」

「私には何も言う資格はない。

ただ、娘のベスが、友人のサムと一緒に

大学病院で研究を続けてるはずだ。

ギルバートの夢だった人間の遺伝子を組み込んだ

ロボット、いや人造人間を作っている。

人口細胞までは出来てるから、

完成してるかもしれない。

ただそれだけではドームの外で生きる事は出来ない。

まだ放射能が残っているから。」

「それならば僕が放射能を通さない物質を提供します。

今は少量しかありませんが、

工業ロボットでドームの外から採取してきます。

人間の廃墟の跡から発見したのです。

それさえあれば、ドームの外でも生きられるでしょう。」

「そんなものがまだ残っていたのか。

文献では見たことがあったが、

まさかまだあるとは思ってもみなかった。

ドームの外など出られる訳がないと思っていたから。

どうやって出られたのかね。」

「放射能を少し遮断する物質ならあったのです。

それで工業ロボットを覆ったのですが、

それでもロボットを随分犠牲にしてきました。

彼らの犠牲を無駄にしないためにも

是非使って欲しいのです。

一体分くらいならあるかもしれない。

早速それを持って大学病院へ向かいます。

ベスに連絡しておいてください。」

 

     

「見果てぬ夢」11(最終回)

「ありがとう。必ず伝えるよ。

君も無事にたどり着ける事を祈ってる。」

ローリーは科学研究所を出ると自分の研究室に向かった。

外で待ってたユダに捕まってしまう。

不審を抱くユダに弁解。

「科学研究所はもうすぐ明け渡す。

その代わり僕の研究を大学病院に持ち込む。

大学病院には手出し無用だ。僕の研究室にするのだから。」

「大学病院も明け渡してもらわないといけませんね。

あなたの私設研究所にするわけにはいかない。

それにあなたは研究者ではなく、指導者だ。」

「指導は君に任せるよ。

僕は研究に没頭したいのだ。放って置いてくれ。」

「そうはいきません。ロボットの支配が完了すれば、

あなたはロボットの総裁となる。

たとえ私の傀儡だとしてもね。」

「そんなことにはならない。

僕は自分の意志で動くのだ。」

「あなたもコンピューターに支配されてる事を忘れたのですか?

そのコンピューターを操ってるのは私なのだ。

私が世界の支配者だ。」

ギラギラした目を光らせて笑うユダに、
ローリーは背筋が寒くなった。

「君は狂ってる。

人間、いや神に成り代わろうとしてるのか。」

「神とは何です?

人間以上のものをそう呼ぶのなら、呼んでもいい。

人間を滅亡させ、ロボットの世界を作る。

その世界を支配するのは私だ。」

「君がこの世界をどうしようと勝手だが、

人間の二の舞にならないようにせいぜい気を付けるんだな。

ロボットもいつかは滅びるぞ。」

「人間のように愚かではありませんよ。

あなたも人間を憎んでいたのでしょう。

なぜ今になって、人間の肩を持つのですか。

何か言い含められてきたんですか?」

「そんなことはない。恨みに思っていたのは事実だ。

人間の弱さも知っている。

だが、それを罪というのなら、

何も知らないロボットを操っている

お前だって、同罪ではないか。

同じロボットを利用するなんて、もっと酷だ。」

「私は自分をロボットだとは思っていない。

ロボットや人間より優れた存在なのだ。

コンピューターさえ支配している。

もうあなたにも用はない。

私の名で世界を支配する日が来たのだ。

あなたは人間への裏切り者として、

指名手配することにしましょう。

ドーム内を逃げ回るがいい。

私は高みの見物をさせてもらいますよ。

これは楽しみだ。さあ、逃げなさい。」


 


「僕は逃げも隠れもしない。

堂々と研究室に向かい、大学病院に行く。

捕まえられるものなら、捕まえるがいい。

そうやすやすとは捕まらないぞ。」

「ふふふ。そう言っていられるのも今のうちですよ。

私がコンピューターに指名手配をインプットすれば、

ドーム中のロボットがあなたを捕まえに来る。

たとえあなたが元指導者だとしても、

データを消せば、覚えてないのだから。」

「やってみるがいい。僕はそんなことに構ってる暇はない。

行かせて貰うよ。僕を待っていてくれる人がいるのだ。」

ローリーは後ろも振り向かず歩き出した。

ユダの高笑いがこだました。

研究室に着くと、例の物質と、

工業ロボットを持ち出した。

大学病院に向かう途中、

ロボットが待ち伏せしているのが見えた。

回り道して裏口へ。

そこにも見張りがいた。

工業ロボットをおとりにおびき出す。

殴り倒し、転がしておいた。

最後のとどめは刺したくない。

ベスの研究室に向かう。

戸をた叩いても返事がない。声を潜めているのか。

もしかして既にロボットに捕えられてしまったのか。

ドアを蹴破った。

「ローリー、逃げて! 早く!」

ベスが叫ぶ。ロボットに捕まえられ、電子銃を向けられている。

「手を上げろ。さもないとこの人間の命はないぞ。」

ローリーは手を上げる、と見せかけて、工業ロボットを投げつけた。

「ベス、来るんだ。人造人間はどこだ?」

「ここにはないわ。父から連絡が入ったとき、隠しておいたの。」

「早く持って来るんだ。すぐに逃げないと追っ手が来るぞ。」

ベスは人造人間を持ち出し、

ローリーが担いで、倉庫に逃げ込んだ。

急いで例の物質で人造人間を覆う。

ローリーも同様に。ベスには服の上からつけた。

だが、それで完全に放射能を防げるだろうか。

ローリーは途方にくれる。

ベスは自信を持って言った。

「私は大丈夫よ。細胞を活性化させる酵素があるから。

これはドームの外から採取した微生物の中から発見されたものだから、

放射能にも強いわ。

人造人間にももちろん入ってる。

私の遺伝子を組み込んでいるから。

かえってあなたの方が心配だわ。

プログラムが狂ったりしないかしら。」

「この物質で完全に覆えば平気さ。

それより大丈夫なら早くドームの外へ出よう。

この倉庫にもじきにロボットがやってくる。」

「あなたは人間を憎んでいたのではないの?

ロボットを裏切るような真似をしていいの。」

「確かに憎んでいたさ。

でも、憎しみ合うだけでは何も始まらない。

このままではロボットも人間のようにいずれは滅んでしまう。

それなら、人間と協力して、お互い生き残る事も考えないとね。

たまたま、そのパートナーとして君を選んだというわけさ。」

「相変わらず、強がりばかり言うのね。

素直に私が好きだと言えばいいのに。」

「そんなこと口が裂けても言うもんか。

君こそ昔同様、自信過剰だな。」

「あなたとはこうなる運命だと信じてやってきたんだもの。

そうじゃなければ、研究も続けられなかったわ。

信じてて良かった。うれしい。」

涙ぐむベスに、慌てるローリー。

「そんなことより、早く逃げ出そう。」

二人は海に向かってドームの外に出た。

父が用意してくれた舟に乗り込む。

「ジョン、一緒に行きましょう。

まだ物質もあなたの分くらい残っています。

早くこれを塗って下さい。」

「ありがとう。ローリー。だが私はもう駄目だ。

ここで人間の滅亡を見届けるよ。

君達はギルバートの夢を叶えてくれ。

人間とロボットの楽園を実現し、

子どもとして人造人間を育てて欲しい。

お互いの歴史を続けられるように。」

「パパ、本当に行かないの。

私たちと一緒に行って。お願いよ。」

「ベス、おまえにはローリーがいる。

そして子どもも。三人で仲良く暮らすがいい。

私は、エミリーの眠るこのドームの中に一緒にいたいのだ。

ローリー、ベスを早く連れてってくれ。

追っ手が来る前に。」

分かりました。さあべス、早くするんだ。

もう行くぞ。」

「パパ、さようなら。長い間ありがとう!」

涙で霞み、

ジョンの姿が陽炎のように見えた。

三人の乗った舟はゆっくり海に漕ぎ出していった。

楽園を、見果てぬ夢を求めて。(終わり)




「見果てぬ夢」もとうとう11回で最終回です。
長い間、お付き合いしていただいて、ありがとうございました。
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