「十三夜の面影」1
今日はいい天気だったせいか、
夜も星や月がよく見える。
久しぶりに月を見つめていると、
なにやら落ちてくるものがある。
錯覚?と目をこすっても、
かえってはっきりと見えてくるのだ。
天女かと思った。
薄い衣を身にまとい、
恥ずかしげに舞い降りたのだ。
「ここはどこですか?」と口を聞いた。
「君は誰なんだ?」と僕。
「私はかぐや姫です。」
「冗談言うのはやめてくれよ。」
「本当です。」
ときっぱり言う。
嘘を言ってる様子はない。
「じゃあ証拠を見せてくれよ」
「不老不死の薬を持ってます。
試してみますか?」
「いいよ。昔も燃やしたんだろ。」
「そうですね。不死ならぬ富士の山で。」
「すごいな。
僕は興味があって知ってるけど、
そんなことまで知ってるなんて、
今の女性らしくないよな。」
確かに不思議な女性だ。
「そうでしょう。」
とにっこり微笑む。
思わず引き込まれそうになるほど、可愛い。
「まあ、いいや。
とにかくそんな透けそうな服、
着替えた方がいいと思うよ。
目の毒だから。」
と見たいけど、見てはいけないと
目をそらしてしまった。
「これしか着るものはないのです。
いつのまにかここに来ていたのですから。
あなたと目が合って、
惹き寄せられるように
ここに降りてきてしまった。
どうしてなんでしょう。」
と、大きな瞳でまっすぐに見つめられると、
心がかき乱されてしまう。
「どうしてなのかは、
僕の方が聞きたいくらいだよ。
でも、僕の為に来てくれたと言うのなら、
ありがとう、かぐや姫。」
「どういたしまして。」
「といっても、かぐや姫なんて、
誰も信じないだろうから、
別の呼び名を考えないと。
別名、この花咲くや姫ともいうらしいから、
咲きちゃんと言うのはどうかな。」
「咲きちゃんですか?
ちゃんと言うのは何ですか?」
「まあ、姫ということだよ。」
「ならいいでしょう。」
やはり姫なのか、
気品があるんだよな。
こんなふうに咲ちゃんこと
かぐや姫と僕は出会ったのだ。
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