「十三夜の面影」22
かぐや姫には涙を見られてないと思う。
自分の弱さを見せたくないと思ってしまうのだ。
人間なんて誰だって弱いものだけど、
それを隠して生きている。
弱さをさらけ出したら、そのまま崩れてしまいそうな気がするからだ。
でも、好きな人にはその弱さまで分かって欲しいとも思う。
そう思いながらも、彼女に見せるのが怖いんだよな・・・。
彼女が明日の満月の夜までしか地球にいられないのなら、
せめていい思い出をつくってやりたい。
特に僕とのね。
今日は仕事にいかないといけないが、
昨夜ほとんど寝てないせいか、
力が入らないなあ。
今日ちゃんとやらないと明日休みが取れない。
なんとか頑張らなくっちゃな。
彼女は今夜もバーに行くつもりだろうか。
ずっと一緒に過ごせる夜は今夜限りだというのに。
まだ「月に代わってのお仕置き」をするつもりなのか。
人間なんて醜いから、そんなことしても切りがないよな。
そういう自分も醜い人間の一人なのだが・・・。
なんとか今日の仕事をこなして、うちに辿り着いた。
今日は疲れたなあ。
やはり睡眠不足がたたるよ。
「ただいま」
声にも疲れが出てるな。
「お帰りなさい」と
いつも聞こえる声がしない。
もう帰ってしまったのか?
慌てて部屋の中を探す。
狭い部屋の中だ。
隠れる訳にもいかない。
どこに出かけたんだろう。
もうバーに行ってしまったのか。
でも、今日は早めに帰ってきたのに。
そう思っているうちに、
「ただいま」
元気な彼女の声がした。
「どこ行ってたんだ。
探したじゃないか。」
責めるような口調になってしまう。
心配し過ぎたせいだ。
「買い物に行ってたのよ。
今夜はご馳走作ろうと思って。」
買ってきたものを両手で抱えながら、
涼しそうに微笑んでいる。
「こっちの気も知らないで。」
思わずつぶやいてしまった。
「どんな気?」
からかって聞く彼女は小悪魔のようだ。
「なんでもないよ。」
とても対抗できないよな。
「そう。ならいいけど。
夕食作る間に、お風呂でも入ってて。」
新婚みたいだな。
それもあと少しだけど。
僕は湯船に入っているうちに
うとうと寝てしまったようだ。
「起きて。もう夕食の用意できたのよ。」
と彼女がバスルームに入ってきた。
「どうせなら背中流してあげましょうか?」
なんて言うから、
「頼むよ。」と言ってしまった。
背中を洗ってもらってる間に
「今日は仕事に行かなくていいのかい?」
努めて優しく言うと、
「もういいの。どうせやめるんだし、
今夜はあなたのそばにいたいの。」
甘えるように言われるとくすぐったい。
「嬉しいな。」
心が温かくなってくる。
こんな幸せがいつまでも続くといいのに。
でも束の間だからこそ貴重なのかも。
今このときを大切にしないとな。
背中をこする手がふと止まった。
「もう終わりでいいよ。」
彼女の返事がない。
背中に頭をもたれてきた。
その重みを感じていると、
何も言えなくなってしまった。
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