「心の声」3
歌をクリックすると、「強さと優しさ」という歌が聴けます。
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今はまだつわりも酷くないし、
お腹も目立ってないから、気が付かれてはいないだろう。
身一つのうちに、この研究所から逃げ出したいけど、
なんとか彼に知らせる方法はないかしら。
心の声も、こう遠くては届かない。
子どもまで研究材料にされるのだけは防がないと。
心の声が聞こえるなんて能力は遺伝しない方がいいと思うけど、
彼もそうだから、どちらに似てもそうなってしまうかな。
彼と一緒に逃げられれば、こんな心強いことはないのだけど。
能力の研究と共に、外国語を話す訓練もさせられている。
自国語も話せない私に、なんのための訓練なのだろう。
スパイでも養成するつもりかしら?
訓練の時は、彼も少しは近くにいるかもしれない。
個室を出たときは、心のガードをはずそうと思った。
翌日、訓練室に連れて行かれ、心の耳を澄ました。
かすかに彼の心の声が聞こえた。
でも、弱くてよく聞こえない。
周りの雑音が多すぎる。
集中するのだ。
私の名を呼んでいた。
私も彼の名前を呼ぶ。
そして「あなたの赤ちゃんが出来たのよ」とも。
急に彼の歓声が聞こえた。
喜んでくれてるみたい。良かった。
こんな状況で、嬉しいとばかりは言ってられないけど、
やはり二人の愛の結晶は嬉しいよね。
「産んで研究材料に取り上げられる前に、ここを逃げ出したい」と言うと、
彼は「わかった。でも、うかつには動くな。
僕が準備するから、待っててくれ。」と言う。
父親になったら、前よりもっと頼もしくなったみたいだわ。
彼の言葉を信じて待とう。
でも、彼の不安も分かってしまうのが辛いよね。
私の不安もだけど。
お互い弱いところがある人間だから、
かえって信じ合えるのだ。
強いだけの人間なんて、
人の弱さや痛みが分からないものね。
親の愛情に恵まれない子どもだったからこそ、
自分の子どもは愛してやりたいと思う。
それは彼も同じだった。
お互い家庭に飢えていたのだ。
これで私たちは本当の家族になれる。
そう信じていた。
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