「心の声」6死んだという自覚さえない幽霊は、 そのまま彷徨っているのだろうか。 この家に居る複数の幽霊はどういう人たちなのだろう。 私と彼は手を握り、顔を見合わせていた。 とんだ幽霊屋敷に飛び込んでしまった。 でも、他に行き場もないし、 話を聞いてみようか。 「あなたたちは、どういう関係なのですか?」 恐る恐るきいてみる。 「あんたたちこそ、どういう関係?」 きつく聞き返されてしまった。 「私たちは、恋人同士で、もうすぐ子どもも生まれるんです。」 すぐには返事が返ってこず、さすがに子どものことは驚いたようだった。 「そうなの。それじゃここにしばらく居てもいいわ。」 諦めたように彼女は言う。 「ありがとうございます。」 「私たちはこの家に住んでる夫婦だけど、 もう住んでいたと言った方がいいのかしら。」 「そうですね。もう亡くなられているから。」 「信じたくはないけど、やはり死んでいたのね。」 「お子さんは居なかったのですか?」 「居るけど、何年も前から見当たらないの。 出て行ってしまったのかもしれない。」 「なぜ、そう思うんですか?」 「親子喧嘩ばかりしていたからね。 喧嘩というより、家庭内暴力と言うのでしょうね。 私は息子に暴力を振るわれていたの。」 「なぜ、逃げなかったのですか?」 「主人は逃げろと言ってくれたけど、 私だけ息子から逃げる訳にはいかないわ。」 「私が残るから、妻には家を出るようにと言ったんですが。」 初めてご主人の声を聞いた。言うことの割には気弱そうな声だ。 もしかしたら、その息子にこの両親は殺されたのかもしれない。 寝ている間とかに。 「息子が私たちを殺したなんて思ってないでしょうね。」 心を読まれたのかと思って、びっくりした。 いつもは読んでる私たちだから、逆の立場は慣れてない。 「いくら暴力を振るっても、本当は優しいのよ。 怪我した私をいつも心配して、手当てしてくれてたの。」 「ではなぜ、そんな暴力を振るうんでしょうか?」 「私に甘えてるのよ。私なら許してくれると思ってるんだわ。」 「たとえ殺しても?」 思わずそう言ってしまった。 「そんなはずないと言ってるでしょう。」 声を張り上げて言うのは、自分も疑ってる裏返しだ。 息子が自分達を殺したとは信じたくないのだろう。 「そうですね。今となっては確かめる術もないだろうから、 強盗にでも殺されたのだと思ったほうがいいでしょうね。」 慰めにもならないかな。 「あなたたちこそ、強盗とかじゃないでしょうね。」 「とんでもない。泊まる所を探してただけです。」 「泊まるだけなら、いつまでいてもいいけど。」 「助かります。良かったね。」 彼と微笑み合った。 続き |