「白蛇の道」1![]() 蛇は通る道が決まっているらしい。 獣には獣道があるように、蛇には蛇の道があるのだ。 普段は目にすることもないから気づかない。 ある日、家への近道をしようと、 草むらを横切った時だった。 知らずに蛇の道を横断してしまったらしい。 細く白い蛇だったが、 お互いに驚いて見つめ合ってしまった。 艶かしいと感じるほど、きれいな白蛇だ。 蛇は鎌首を持ち上げると、 私の様子を窺うようにじっと見ていたが、 やがてツンと見捨てるように私を避けて通り過ぎた。 私は呆然と立ち尽くしていたが、 白蛇が去ると、我に帰り、 また先へと歩き出した。 急いでうちに帰ろうと思ってたのだ。 彼から電話が来るはずだから。 私は今時珍しく携帯を持っていない。 彼は持ってるけど、私用には使わない。 会社から支給された携帯で、 公私混同しないという生真面目な人なのだ。 お互い不便だけど、それはそれで楽しいということもある。 家に帰ってからの電話タイムが楽しみなのだ。 私の方が普段帰りが早いので、 しばらくうちで待つことになるが、 今日はなぜか彼も早いということを、 昨日聞いていたのだ。 今日はたくさん話せるなとウキウキして、 思わず近道をしたのだった。 うちの玄関を開けた途端、 私は凍りついてしまった。 先ほどの白蛇が、玄関のたたきに居るではないか。 私とすれ違ったはずなのに、 なぜここに居るのだろう。 私の後を付けてきたとしても、 なぜ先に中に入れるのか。 穴が開くように見つめていると、 蛇が口をきいたのだ。 「私の行く手を遮る者は許さない。 だから、お前の行く手も阻むのだ。」と。 言葉を話す蛇なんて初めて見た。 驚いたけど、頬をつねると現実のようだ。 そう言われてもなあ。 確かに邪魔したかもしれないけど、 踏んだ訳ではあるまいし、 うちまで来られるほどの恨みを買うことも無いよね。 そう思ったものの、 そんなこと言ったら、蛇が逆上するかもしれない。 ここは下手に出て謝っておこう。 もうすぐ彼からの電話がかかってくる。 なぜか蛇の声は男のような低い声だから、 彼に誤解されてはかなわない。 蛇に早く帰ってもらわねば。 「さっきはすみませんでした。 もうあの道は通りませんから、 お帰りいただけませんか?」 猫なで声で言うと、 「許さない。 罰として、ここにしばらく置いてもらおう。」 と言うではないか。 「とんでもない。 早く帰ってください。」 つい哀願口調になってしまった。 そこへ電話のベルが鳴る。 あわてて受話器を取ると懐かしい彼の声。 ![]() 下の「続き」をクリックすると、続きが読めます。 続き |