「白蛇の道」5彼からの電話がしばらく遠ざかってるのに、 無言電話だけはかかってくる。 うちの固定電話は、着信履歴が出ないからな。 無視するしかないと思っていても、嫌なものだ。 そんな電話には出なければいいものを、 もしかして彼ではと、思わず受話器を取ってしまうのが哀しい。 白蛇は相変わらずうちに居座っている。 昔から棲んでいたような顔をして。 これでも、用心棒代わりにはなるだろうか。 無言電話の時、一人は心細いのだ。 彼に助けを求めたくても、連絡が取れない。 仕事用の携帯には電話しない約束なのだ。 彼から電話がかかってくるのを待つしかない。 電話をただ見つめていると、迫ってくるような感じさえする。 「自分から、かければいいじゃないか。」 心を見透かしたように、白蛇は無責任に言い放つ。 「そんなこと言ったって・・・」 かけたら、仕事の邪魔だし、気を悪くさせてしまう。 嫌われるのが怖いのだ。 でも、このままだと、自然に離れてしまうかも。 勇気を出して、かけてみようか。 一応、緊急用にと電話番号だけは教えてもらってるのだ。 もう夜だから、仕事も終わりかけてるかもしれない。 思い切って、電話のボタンを押してみる。 でも、震えてしまって、うまく押せない。 拒絶されるのが怖ろしい。 震える手から、電話が零れ落ちた。 白蛇がすっと寄ってきて、 電話を取り囲むようにとぐろを巻く。 「なぜそんなことをするの?」 声まで震えてきてしまった。 「電話しないのなら、要らないだろう。」 私を挑発しているようだ。 その手には乗らないわ。 「そうね。要らないから持っていって。」 後ろを向くと、台所に逃げ込んだ。 何か食べるものはないかしら。 心の飢えを食べ物で満たそうなんて、哀しいけど。 だから太るんだよね。 冷蔵庫を開けても、ろくなものはない。 買い物に行ってこようか。 気分転換になるかもしれない。 ただうちで彼の電話を待ってるだけではつまらない。 歩いて近所のコンビニへ行った。 立ち読みしてる人や、外でたむろしている若い男女もいる。 夜行き場のない人たちの溜まり場のようだ。 私のその一人なのだけど。 お弁当とティラミスとウーロン茶を持って行き、レジを済ませる。 顔なじみの店員がいるわけでもないから、会話もない。 すぐに帰ればいいものを、雑誌の立ち読みする。 特に読みたいわけではないけれど、 ただあの部屋に帰りたくないだけなのだ。 こういうとき、どこに行ったらいいのだろう。 うちに居るより、かえって孤独を感じてしまうのに。 実家にはしばらく帰っていない。 時々母が心配して電話をくれるけど、 素っ気無く返事して切ってしまう。 付き合ってる人はいるのかとか煩いのだ。 彼を紹介しようかとも思ってたけど、 こんな状態ではとても言えない。 結婚して、孫を期待してるのを知ってるから。 両親が仲悪いのを見て育って、 結婚なんて、と思ってるのに。 母も、自分のことは棚において、 早く結婚しろだなんて、勝手だよね。 彼とならもしかして、とも思っていたけど、 やはり彼もただの男だったのかな。 なかなか最後まで許さない私から離れていくのかも。 今までの男もそうだった。 両親のことがあるせいか、性に拒否反応があるのだ。 白蛇のことで、うちに泊まってくれたときも、 我慢してくれたのかな。 それから連絡が少なくなったような気がする。 白蛇のせいではなく、私のせい? それならそれで仕方ないかもしれない。 私は一人で生きていくしかないのかな。 そういえば白蛇がいたっけ。 思わず、含み笑いをしてしまった。 声が漏れたのか、横で立ち読みしていた人に怪訝そうな顔で見られた。 さあ白蛇の居るうちに帰るか。 下の「続き」をクリックすると、続きが読めます。 続き |