「白蛇の道」10彼の優しさに触れて、 心まで溶けそうになるけど、 やはり体は固くなってしまう。 私は父に汚されてしまったのだ。 彼にふさわしい女じゃない。 知らぬ間に「汚れっちまった悲しみに」 とつぶやいていた。 彼が「今日も小雪の降りかかる」と続ける。 はっとして、顔を上げた。 「中原中也だろ。僕も好きなんだ。」 「私は好きじゃない・・・。 でも、自分のことのようで覚えてしまったの。」 「じゃあ、言ってみろよ。」 と彼にはめずらしく強い調子で言う。 「いいわ。 汚れっちまった悲しみに 今日も小雪の降りかかる 汚れっちまった悲しみに 今日も風さえ吹きすぎる 汚れっちまった悲しみは たとえば狐の皮裘 汚れっちまった悲しみは 小雪のかかってちぢこまる 汚れっちまった悲しみは なにのぞむなくねがうなく 汚れっちまった悲しみは 倦怠のうちに死を夢む 汚れっちまった悲しみに いたいたしくも怖気づき 汚れっちまった悲しみに なすところなく日は暮れる」 言いながら、泣きそうになってしまった。 それでも、意地になって最後までなんとか言った。 「泣かないで言えたじゃないか。」 優しく言う彼に、思わず 「私は汚れてるのよ。 あなたに抱かれる資格はないの。」 と反発してしまった。 「君は汚れてなんかいないよ。 少なくとも心はきれいなままだ。」 そんなこと言われると、 本当に泣きたくなっちゃうじゃない。 堰を切ったように涙が溢れてきた。 下の「続き」をクリックすると、続きが読めます。 続き |