「メビウスの輪」4とうとう彼女とデートして、 つきあってもらえることになった。 勇気を出して「好きだ」と言ったら、 「好きになりそう」と言ってくれたのだ。 それでも、なかなか進展はしないけど、 あせらず少しずつ深めていこう。 東山魁偉展を見に行って、 感性が同じだなと思った。 青が好きで、自然に溶け込みたいと感じてること。 手をつなぎながら、心もつながってると思った。 彼女は触れられるのが苦手なようだ。 警戒してるのかな。 でも、拒否されなかっただけいいかもしれない。 右手を使うときは、 左手に彼女の手を持ち替えて、 離さないようにした。 離してしまったら、 もう二度とつかめないような気がして。 そのくせ「好きだ」と言う前に、 強く握り過ぎて、 泣きそうな顔をしたから、 思わず離してしまった。 愛しいと思ったから。 でも、「好きになりそう」と言ってくれたので、 また手を握りなおしたのだ。 手をつなぐだけでもいい。 そんなふうに思えるなんて初めてだ。 今までは、女性の方が積極的で、 そういう関係になったら冷めてしまった。 もともとそれほど好きになったことはない。 親の不仲を見ていたせいか、あまり愛を信じてないのだ。 でも、彼女は違うと信じたい。 彼女も家庭環境が複雑なようだけど、 その割には素直な感じがする。 おっとりとしてるというか、お嬢さんぽいよな。 このまま大人しくつきあっていれば、 いつかは許してくれるのかな。 いろんな話をしたいと思う。 彼女の体ではなく、心をもっと知りたい。 こんな風に思えるのが嬉しいかも。 なんか隠してるような感じがするんだ。 でも、踏み込んではいけないし、 そこも心を溶かしながら聴くしかないのかな。 練習日以外はなかなか逢えないから、 メルアドを教えてもらって、 メールをすることにした。 彼女はなぜかメールになると饒舌なのだ。 普段口に出さないようにしているからなのか。 恥ずかしがり屋かと思ったら、 結構、淋しがり屋の甘えん坊なんだよな。 俺を頼ってくれてるのは嬉しい。 どっちが年上か分からない。 俺の話も黙って聴いてくれるし、 素直に従ってくれることもある。 どこまで要求していいのか 分からないところもあるけど、 無理を言っても聞きそうで、可哀想かな。 童女のような素直さと 慈母のような温かさ。 でも雪女のような冷たさも 隠し持っているような気がする。 不思議な女性なんだ。 メールではいろんなことを話すくせに、 逢うとあまりしゃべらなくなってしまう。 俺の目を見て、話を聞いてくれるから、 どんどん自分のことを話してしまう。 吸い込まれるような感じだ。 手を握って、引き寄せると逆らわない。 でも、体が震えてるのが分かるから、 つい控えてしまうのだ。 続き |