童話「ベラのペンダント」16
童話「ベラのペンダント」16です。
良かったら、最初から読んでみてくださいね。
童話「ベラのペンダント」1・2です。
王妃の不安が的中したかのように、ライザは九死に一生を得ていた。
王妃が遣わした追ってから逃れようと崖から谷底の河に転落し、
川岸に流れ着いたところを猟師に助けられたのだった。
頭を打って記憶喪失になり、看病してくれた猟師と一緒になって、息子ももうけていた。
だが息子が大きくなるにつれ、何か違和感を覚えるようになっていった。
私の子どもは娘だったはずではないのか?と思ってしまう・・・
息子が可愛らしい顔立ちで女の子にも見間違えられるほどだったから、娘と錯覚してしまうのだ。
といっても、活発な腕白坊主だったから、ますますギャップが激しい。
夫の漁師は、息子も猟師にしようと体力をつけるために鍛えていた。
息子と猟犬を連れて狩りに行った留守中、ライザは何度も見た夢をまた見ていた。
息子が娘になり、その娘が王宮にあがっている。
王宮になど行ったことないはずなのに、やけにはっきりと目に浮かぶのだ。
きらびやかな装飾の中に青い光の宝石が散りばめられ、
それと同じ宝石のペンダントが娘に王から手渡される。
なぜか見覚えのあるペンダント。王は娘を温かい目で見守り、王妃は鋭い目つきでにらんでいる。
その娘が自分のようにも感じられるが、自分の子どものような気もする。
私は一体誰なんだろう。夫の漁師は、私が川から上がってきた人魚のように思っている。
まるで私が記憶を取り戻して、どこかに行ってしまうのを恐れているように、何も聞かない。
自分も思い出そうとしても、頭が割れるように痛くなるし、もしかしたら罪でも犯して逃げてきたのではと
思い出すのが怖い。それでも、何者なのかを知りたいし、あの夢に出てくる娘のこともわかりたい。
今の家庭はそれなりに幸せで壊したくはないが、本当の自分ではないような気がして、落ち着かない。
もしかしたら、夢で見た王宮に行けば何か分かるかもしれない。でも、私のような女が、
王宮に入れるわけもないし、行くだけ無駄だろう。そう思っても、つい気持ちは王宮に向かってしまう。
街にさえ滅多に行かないほど山小屋にこもっているから、ますます想いがつのってしまうのだ。
夫も息子も今は留守。この機会を逃したら、また出かける時を失ってしまう。
そう思うと居ても立って居られずに、わずかな蓄えと着替えを持って飛び出していた。
王宮を目指して歩き出したが、途中で夜も更け、泊まるところを探した。
といっても宿に泊まるほどのお金もない。
少しあるにはあるが、宿に泊まったらすぐに使い切ってしまいそうな額だ。
途方に暮れて、民家に泊めてもらおうと戸をたたいた。
「すみません。一晩だけ泊めていただけないでしょうか?」
「悪いけど、うちにはそんな余裕はないんだよ。
あそこの聖マリア教会に泊めてもらったらどうだい?」とおかみさんは言った。
「マリア教会? どこにあるのですか?」
「あの丘の上にある教会だよ。牧師夫人が親切だから泊めてくれるんじゃないかな。」
そう教えてくれるおかみさんも割と親切だとライザは思った。
「ありがとうございます。教会に行ってみますね。」
丘をのぼり教会にたどり着くと、門のベルを鳴らした。
「ごめんください。どなたかいませんか?」
「はい、なんの御用ですか?」と出てきたテレサは、
ライザの顔を見て、驚きのあまり呆然としながらも、
やっと「あなたはライザなの?・・・」とだけ言った。
「私はライザというのですか?
記憶をなくして自分の名前もわからないのです。」と心細そうに言うライザに、
「やっぱりライザだわ。殺されたと思ったけど、生きていたのね。良かった。
あなたの娘も無事よ。今はスコッチ家の養女となって、王女ロザリーの学友として王宮に上がってるわ。」
とテレサは一気にまくしたててしまった。
「どういうことですか? 私には娘が居るのですか? それに私は殺されかけたの?」
ライザも立て続けに質問した。
「そうね。ごめんなさい。いきなりこんなことを言っても理解できないわよね。
あなたは、王妃付きの女官だったのだけど、王様の寵愛を受けて娘を産んだの。
それが王妃にばれて殺されそうになり、娘を私に預けたのよ。」
「そうだったんですか。だから私は息子が娘に見えたり、
娘が王宮に上がる夢を見たのかもしれませんね。」としみじみ言うライザに、
「あなたには息子も居るの? だったら旦那さんも居るのかしら?」と訊くテレサ。
「はい、私を助けてくれた猟師の夫と、息子が一人居ます。」
「今は幸せなのかしら。それならいいのだけど。」
「そうですが、やはり本当の自分や娘のことが知りたいのです。」
「そうよね。ベラに会ってもらいたいわ。きっと喜ぶでしょう。」
「娘はベラと言うのですか。会いたいです。こんなに放っておいて申し訳ないけど」
「記憶喪失だったんだから仕方ないわ。それも王妃のせいなんだから。」とテレサは憤慨する。
「ベラが王宮にあがってると聞いたけど、王妃に狙われたりしないのでしょうか。」と心配そうなライザ。
「今のところ、あなたの娘とはばれてないと思うけど、顔立ちが似てるから怪しまれてるかも。」
「私に似てるのですか。早く会いたいです。会わせてもらえませんか?」
「すぐにスコッチ家に使いを出してみるわ。会えるのは少し先になるかもしれないけど。」
「お願いします。それまでこの教会で待たせてもらっていいですか?」
「何を言ってるの。私たちは親友だったのよ。ずっとここに居て。」とテレサはライザを抱きしめた。
だが、体を離すと思い直したように、
「でも、もし王妃に見つかったら大変だから、ここには居ない方がいい。別の場所を探すわね。」と言った。
「私にはやはり居場所は無いのですね」と淋しそうに言うライザ。
「そんなことないわ。ここでもいいけど、また殺されそうになってほしくないだけよ。」
「そうですね。ごめんなさい。じゃあ一晩だけでもここに居させてください。」
「もちろんよ。今夜は私の部屋で一緒に寝ましょう。一晩中話していたいほどよ。」
「ありがとうございます。私だけでなく、娘までも守ってくれたのですよね。感謝しきれません。」
「そんな他人行儀なこと言わないで。逆の立場だったら、きっとあなたもそうしてくれたと思うわ。」
「そうね。じゃあ遠慮なくそうさせてもらいます。あなたに会えてうれしいわ。
娘に会えたらもっとうれしいと思うけど。はやく会いたいなあ。」
「会わせてあげる。それまでは私とおしゃべりしましょう。」とテレサは寝室に誘った。
(続き)