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2005年06月23日
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カテゴリ:カテゴリ未分類
初恋
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【恋】
脳に感染する正体不明のウィルス。光や空気を媒介に、眼球や耳などの感覚器官から脳に侵入し、宿主の人生を狂わせる。感染者同士の相互作用により増殖するため、遠隔地への隔離や交流の禁止などが基本的な対策として有効である。一度感染すると体内に残存し消滅する事はない。また、感染すると「酩酊感」や「万能感」などの中毒症状を起こす為、供給源が絶たれた場合、最悪死に至る。【性欲】と近縁種にあるが、同一変種ではない。むしろ系統的には【萌】に近い、危険なウィルスである。
同一変種→【初恋】 
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「天井を下げろ!天井を下げろ!」
 熱狂的な擬似ダーヰニスト達が椅子の上に立って叫んでいる。広場に集まった群集の三分の一は真剣な眼差し、三分の一は敵意剥き出し、残りは僕ら観察者、見る者、無知者。
 僕とハルは社会ダーヰニズムの嘘も知っているし、敵対するラマルキスト共がラマルクの著書なんか読んだ事もないだろうって事も知っている。人類の進化はもう少し先の話だ、少なくとも生きている間にははじまりもしないしおわりもしないだろう。もうすぐ冬だってのに、彼らは半袖で叫んでいる。待っているのだ、環境圧が彼らの体を変容させるのを。
「『擬似ダーヰニスト』達の目さ、瞳孔が開いているようだね」
とハルが言った。ハルのあごは小さくて、薄い唇がよく動くから、まるで良くできたゴムの人形に見える。
「それは蔑称だから、みだりに口にするものじゃないよ」
ハルの手を引いて広場を後にしながら、僕はそう言った。
 町のはずれにある映画館に向かいながら、僕達はとりとめのない話をした。旅をして本当の主人を見失ってしまった犬の話、隣町のパン屋の娘が鳩の嘴を集めている話、雲の上まで飛んだ外国のロケットの話。いつでも変化は僕達の外で起こっていた、僕は恐れていた、何かが変わるのを、種ではなく、一個体としての変容を。
「惑星開発はさ、予算じゃなくて外交問題だって」
なぜだか僕は話しながらハルの目を見ていた。そして、不意に、気づいて話を止めた。
「どうしたの」
ハルが顔を近づける、やめてくれ、環境圧、遺伝子は言語を持たない、変容するのは精神だ。僕は変わってしまった、精神が変容する、ハルの顔を見ることができない、ハルの目、上下の睫毛、小さな鼻、切れ込みを入れたような唇、全てが違ってしまった。
ぽろぽろと泣き出した僕は、ハルに言った。
「何もかもが変わってしまった、変容は突然に来るんだ、もう僕は違う生き物になってしまった」
ハルは少し困った顔をして、僕の襟をつかんで自分の顔に引き寄せた。
唇と唇がぶつかった。あたたかかった。
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【初恋】
【恋】の初期変種。宿主である人間がおよそ「精神的に性交可能な年齢」に達すると【恋】は感染可能となる。未感染の人間に初めて感染した【恋】は、脳内で【初恋】に変異し、脳の奥へ潜伏する。【初恋】は他の【恋】よりも潜伏期間が長く、一生涯引きずられる場合もある。しかし多くの【初恋】は、その後の【恋】感染によって【良い思い出】に変異する。感染後のケアによって、大きく異なる結果がもたらされるのである。
感染時期は個体差が大きく、環境によって変動するため「精神的に性交可能な年齢」は特定できない。





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最終更新日  2005年07月01日 11時01分28秒
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