誇り高きお客様。







私たちが滞在を始めて間もなく

どこからともなく猫が舞い込むようになりました。



まだ小さい、子猫が大人になりかけのような大きさ。

そして、細いカラダ。


メスのようですが、その警戒心の強さから、野生の猫なのだろうと思いました。




元来猫好きの私。

そして、日本では動物を飼えない子供達にとってもいいチャンスです。

猫嫌いな夫は無視するとして(笑)、ここにいる間に世話をすることにしました。



世話といっても、彼女は警戒心を解いてくれないので

人があまり行かない所に餌を置いて、あとは知らん振りをしているだけです。

触りたくて仕方ない子供達にも「自分から近づいちゃいけないよ」と釘をさしておきます。


子供達は猫が飼えると思って興奮気味。

猫が来れば「ママ!猫が来た!餌は何にする?」とキッチンを落ち着き無くウロウロし

猫に気づかれないようにダッシュで餌を置いた後、まだダッシュで家に戻り

こっそり猫を眺めています。



『あの猫ってなんで逃げちゃうの?』


彼女に触りたくてしかたない彼ら。

日本の猫は人なれしているのがほとんどなので、人を見れば逃げる猫は初めてのようです。



あの猫はね、人間に慣れていないのよ。でも前よりは逃げなくなったでしょ?

そのうち体を触らせてくれる日がくるかもしれないよ。


『ふーん・・・・・』


猫と人間の長期戦です。

彼女が警戒心を解くまでガマンガマン。




そうした日が一週間ほど過ぎたある日

最初は私たちが5mも近づけば逃げていた彼女が

家の先にあるベランダまで近づいてくるようになりました。


でも、まだ人がいない間だけ。

人の気配があるとやっぱり逃げてしまいます。



それからまたしばらくすると、私たちが彼女をちょっと離れたところから眺めていても

逃げずに餌を食べるようになりました。


でも、まだまだ近づけさせてはくれません。




そして、そのうちに家の中にも入ってくるようになりました。

家の中のいつでも逃げられるような場所に寝そべっている彼女。


でも、家の中に入れるつもりはないので 『家の中は怖いよ』ということを教えるために

家に入ってきた時は彼女の周りに集まるようにして彼女が逃げるように仕向けます。



ここまで来ると、夫も気になるようで、私たちが寝坊した朝などは


『あの猫が来てたから餌あげといたよ』


と代わりに餌やりに手を出すようになりました。



もともと世話好きな夫。こうなると思ってたんだ(笑)





さて、この猫。


私はてっきり野生の猫だと思ってたのですが、実はお隣の猫だったんだそうです。


お隣さんが誰かから猫を買って飼い始めたらしいのですが

この猫はどうしても逃げ出して我が家に前から来ていたそうです。


やっぱりお隣さんの猫なので

我が家にいる人間も総動員してその猫を捕まえようとするのですが

どうやってもお隣に戻らない。


そのうち、みんながその猫のことは諦めたんだとか。



私:「え、そんなんでいいの?お金出して買ったんでしょ?」


夫:「しょうがないじゃないか。猫が嫌だって言ってるんだから」


あはは、夫の国のこういう考え方、私好きだなあ。



というわけで、前から我が家にいた彼女は、前から餌をもらってたりはしたらしいのですが

異国から来た物好き達によって、かなり手厚く世話をされることになったというわけです。




彼女が私達の1m近くまで来ても逃げなくなった頃、私達の帰国の日も間近となりました。


ある朝、いつも住み込んで私達の世話をしてくれている彼女が


『赤ちゃんを産んだわよ!』


と興奮気味に私達に教えに来ました。



え、赤ちゃん?? 誰が???



彼女がこっそり見せてくれた庭の上垣の中に、その猫と産まれて目も開かないような子猫が2匹。



えええ、妊娠してたのお??????



まだまだ子猫だと思っていたその猫。

妊婦さんだったんだあ。

そりゃ警戒心も強くなるわね(笑)



彼女は、私達がそのままそうっと彼女と子猫たちを見ていてもさして怒りませんでした。


彼女からの義理返し?


ああ、もうちょっとここに居られれば、絶対なついたはずなのに。



子猫を産んだ後、彼女は子猫を連れてどこかに移動したようで

それからその親子の姿は見えないままに私達は帰国することになりました。



『あの猫、どうしたかなあ。赤ちゃん産んでたね』

『あの子猫も大きくなったかなあ』



子供達もしばらくはあの親子のことを気にしてましたが、そのうち話題にもあがらなくなりました。




そして数年後。

私達よりも頻繁に里帰りしている夫が、ふいに言い出しました。


『そういえば、前に里帰りした時に猫がいただろ?』


『うん、赤ちゃん産んでからいなくなっちゃったよね』


『あの猫、まだうちに来てるぞ。それも毎年同じ場所で子猫産んでるらしい(笑)』



あはははは、したたかだなあ(笑)



『それもな、あの猫、ねずみには見向きもしないんだ。

 ねずみが近くに来ても知らん振りで、猫が食べ終わった後に同じ餌をねずみが食べてるらしい』




ってことは、我が家には放し飼いのねずみもペットに加わったわけね・・・・・・・




A・B 『トムとジェリーっぽいね~』




そんなかわいいもんじゃないけどね・・・・・(--)









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