ある朝、気がかりな夢から目をさますと、
俺がヨン様に変わっているのを発見する。
鏡の前で、少し笑ってみる。
ヨン様スマイルだった・・・それも生の。
そこにあったバスタオルを首に巻いてみる。
やっぱり、ヨン様だ・・・。
どうりで、嫁や子どもが、驚いていたはずだ。
ドアの隙間から、真ん中の娘が覗いている。
俺が振り返えると、慌ててドアを閉めた。
どうしてだ?ヨン様なのに・・・。
嫁に報告しなければっ!それも大至急っ!
キッチンに行った。
口を開いたまま、立っている嫁と子ども。
俺を見るなり、子どもたちが、サッと嫁の後ろに隠れる。
側にあったフライパンを引っつかむ嫁。
それで殴られたら、だだじゃすまない~と思いながらも事情を話した。
嫁は、無言で頷きながらも、フライパンは手放さない
・・・用心深いやつだ。
信じられないか、無理もない・・・。
確かに、「俺もモテモテになりたい」って願ったような気がする。
でも、なぜだっ?
受験や就職試験、芸能界デビューや億万長者・・・。
今まで、いくらお願いしても、相手にしてくれなかった神様、
いやっ!嫁のときだけは叶えて貰った・・・ありがとう。
でも、なぜ?それも突然、ヨン様?。
「ヨン様=モテモテ」は、安易過ぎないかい? えっ!神様っ!
こんな願いを叶えて貰うより、小遣いを上げて貰うほうが、
よっぽど切実な願いなのに・・・。
とりあえず、会社に電話した。
「おはようございます。ヨン、いやっ、しばらく休みます」
ヨン様になる前の俺は、家族の大黒柱として、
家のローンを返済するためや、かわいい子どもたちを学校に
入学させる計画を立てていたりと、家族のために懸命に働いていた。
俺は、ヨン様として生きるべく思考を切り替えた。
今後の俺の人生設計の抜本的見直しを行わなければならない。
大事なのは今後の事だ。
今の仕事は、やめた。未練は無い。
両親には俺から話した。
しばらくは無呼吸状態だった。
オヤジは決して目を合わせず、
お袋の無理に作った笑顔の涙目が痛々しかった。
嫁の母は、韓流に理解があるから電話でいいだろう。
嫁のオヤジさんの説得も任せることにする。
嫁のオヤジさんの顔を思い浮かべた。
理解して貰う事は、不可能な気がする・・・。
でも、近いうちに、ジウにも会えるだろう。 ヨン様だから、俺は。
楽天のホームページも作り変えなければいけない。
「ヨン様の焼酎はアンニョ・ハセヨー!」・・・焼酎はまずいか。
タイトルは、後で考えるとしても、
やはり韓国グルメか「冬ソナ」グッズで、統一しないといけないだろう。
得意な分野で、アピールしろとアフェリエイトの本にも書いてある。
ジャンルもドリンクから、他に移る必要がある。
ブログも内容を変えないと。
このままじゃ駄目だ。・・・もっと品が必要だろう。
いっその事、楽天からココログって手もあるが・・・。
いやっ、やめとこう・・・ここには未練がある。
家族会議を行った。
無言のままの嫁と子どもたち。
非常に気まずい・・・何か話さなければ。
「・・・どう思う?」 ヨン様スマイルで嫁に聞いた。
しばらく考えて嫁が言った。
「・・・スマイリー菊池?」
ボケなくていい。
確かに着てるものは俺の伸び切ったスエットだが、
どう見てもヨン様だろ?
それに、「冬ソナ」のジュンさんは、俺のキャラに近い・・・。
間違ってもスマイリーじゃないだろ?
でも・・・あれっ?
・・・気がかりな夢を思い出した。
夢の中で、俺は一匹の蝶になっていた。
真っ青な大空を、どこまでも自由に飛んでいた。
俺の好きな所へ自由に行けた。
俺の好きなことが自由に出来た。
とても、しあわせな気分だった・・・。
夢から覚めた俺は考えてしまった。
どっちの俺が本当の自分だろうかと。
そんな夢だった・・・。
・・・つづく