2006/01/04(水)03:45
鳥取物語 番外編 不二一族物語 第25節●契約●
こいつ、目が・・・・・目が据わっとる!?
ちょっと待て──今まですごくシリアスな展開じゃなかったのか?
少なくともおれはマジメに荒魂の神と対峙して、ちゃんと勝機を頭の中で反芻しながら対処していて・・・・・それでいて今度は呼んでもいない『死』と契約しろっていうのか!?
なんだか話題が──モホロビチッチ不連続面ほどに散らかってないか!?
それとも、散らかってるのはおれの思考の方なのか?
──我に、おまえの調和の力を与えてはくれまいか?
要求を押してくる和魂(にぎみたま)の神に、当座のいいわけを急いで考え募る。
腐っても鯛。この一日で腐らされてしまっても十五歳。
ノーマルの限界は近い。
──あの。でもおれ、自分の力なんて、まだよくわからないし、不勉強なもので、何をどうすればいいのかもさっぱり・・・・・、
──大丈夫だ。手とり足とり教えてやる。おまえは身体で学べばいい。だいたい、おまえは今朝方、禊の折にも我と邂逅したのだぞ。よもや覚えていないとは言わすまい。
なんて強引な・・・・・・そう、おれのまわりってこんな奴ばっかり──呪われてるのかおれは。
──でも、調和があれば、どこかに破壊があるわけですよね。おれ、基本的には平和主義者だと思うし。(←ウソ)。
──それは素晴らしい。我と同じだな。無駄な争いなぞしないに限る。
そう言うと、和魂の神は極上の笑みを豊に寄越した。
──あとはおまえが是とうなずくだけだ。
是と・・・・・・うなずく。
うなずいたら、いったいこの身に何が起こるというのか──鳥肌立ちそうだ。
──震えているか・・・・・・可愛い奴め。
神人は無邪気に破顔した。
──おいで御統守宿よ。
おいで、ときたもんだ。片方の手を伸ばしてきた和魂の神の白い掌が、豊の頬を包む。
黒髪が夜風になぶられる小さな顔をすこし仰向けにひねってやると、豊の瞳孔の中にまともに月が落ちて見える。
和魂(にぎみたま)の神の眼も、夜の中でもきらきらと謎めいた深い湖水色に輝いている。そして、かなり親しげにのたまわく、
──『崑崙より発した竜脈は相生の竜穴に至り、桃源郷をなす。これ万象隆盛の気なりと』、大陸の古文書にも書かれてあるぞ。『魏志倭人伝』のみがこの国の愛読書では足らんのだ。相生の竜穴とはつまり、大地を流れる熱量の非常に強い一点を指す。また、そこを制する者は燃え盛る炎のような性を持っている。しかし、強さにこだわる必要はない。安定して栄えるためには、‘気’は強ければいいというものではない。相性があるのだ。何事にも。
神人は豊の肩を抱き寄せ、お互いに顔を見合わせるようにその顎をつと掴む。
──むつかしい理屈は抜き! 勝負はついたと言ってよ。
いまだに冷たい殺気を増している豊に向かって、和魂の神はしたり顔でうなずいた。
──・・・・・というか、もともと勝組はおまえの方だったのだ。おまえは‘竜’の骨を持って生まれてきた竜の化身、すなわち竜人(りゅうじん)なのだからな。
──竜の骨って? 喉にあるアレのこと?
それは小学一年生の折り、初めての歯科検診で歯医者さんにそれを指摘された日のことを想って、豊は神人の腕の中で首を傾げた。
──いかにも。竜骨を持つ者の霊力は、天変地異をも引き起こすといわれるのを知らないか・・・・・とくに御統守宿(みすまるのすく)の竜骨は、反魂片(かえりみたまのかけら)とも呼ばれ、死人を甦らせるほどの力を宿す。おまえはかような稀人(まれびと)ゆえ、これほどの血が流されても、逆にその血が結界となり、己の内懐に潜ませる竜骨の力で蘇生が可能だったのだ。
──ならば、密は? 荒魂の神に喰われて、老いることを知らなかった歴代の守宿多たちを、この骨の‘力’で甦らせることができますか?
この神と会話を交わしてより初めて、豊はせきったように問いを返した。
ふだんから、相手が神様だろうが人間の上級生だろうが、けっこうタメ口きいている豊だが──また少し、彼の気丈さの氷壁が崩れて、その声には哀訴するような音色が混じる。
和魂の神が言ったこと──自分が反魂術を使いこなせる器であるならば、なんとしてでも、先代の守宿多たちを、たとえひとときでもいいから、絶望のいまわの淵から甦らせてあげたかった。
──はは、戯れごとよ。
だが神人は一笑するのだ。
──ならぬ。先程も申したろう・・・・・守宿多はそれぞれが各々の生まれ変わりなのだ。すなわち、三番守宿はおまえ自身。反魂術はかなわぬ。だが、気落ちすることはない。我にはわかる──三番守宿は自ら命を断ったかもしれないが、かの者は己が身を滅ぼしてまで生まれ変わりたかったのだ。
──・・・・・・・。
──おまえの、そのいいかげんな性(さが)が、なによりの証拠だ。三番守宿は、おまえのような者に、変わりたかったのだ。それが今生でかなって、彼はさぞや満足していることであろうよ。
いちおう確認するけど・・・・・ほめてるんだよな?
和魂の神の言葉に安堵していいものかもわからずに、豊は心にしこりを残したまま沈黙している。
だが、黙ってしまった少年を気遣うようでもなく、永い時を生きる千里眼の神人は、今まで大神のみが知り得ていた『真実』を、いとも容易く口にのぼらせていくのだ。
──竜は炎とともに天空に昇り、恵みの水となって地に降り注ぎ、天と地の間にあるもの、すべての縁を結ぶ。死人(しびと)と生者が断ち切られているなどと、硬い観念も持たぬ。竜の力は生と死の縁(えにし)をも、かたちを変えて結ぶのだ。より具体的に言うと、我が長く遊行していた大陸では古来、代々現れ来る皇帝のような傑出した人物のことを指すのだが・・・・・・秘伝では、竜とは。
ふいに和魂の神の言葉がためらわれ、身に秘めた知恵を巡らせて聞き入っているようでいた豊が、先を促すかのごとく思わず反芻してしまう。
──竜とは・・・・・・?
──アホでもよいのだ。
ズルッ・・・・・・! 毒気を削がれて、豊はいまだに拘束されている岩壁から、ずり落ちそうになる。
──竜は賢者である必要はない。賢者は用いればよい。竜のまわりには、竜を竜と見極めることのできる賢者がおのずと集まるからな。おまえでいえば、兄弟たちがそれに当たるだろう。
──は・・・・・・はあ?!
──だが、‘竜の相’として天から徴を与えられている者も歴史上、少なくはない。おまえのその喉元の骨・・・・・・全体の骨の数が多く生まれることは、まず常人ではありえない現象だ。それだけで、人間は均衡を失う。しかし、その均衡を失ったところから鬼才の‘気’は生まれるのだ。
豊がぱちぱちと瞬きをする。
──竜とは・・・・・・竜とは・・・・・ひとくちで、なんと言ったらよいか。
神人は滝洞から垣間見える満月を見上げて迷う様子だったが、やがてにっこりとした。
──吉祥聖獣だ。
──・・・・・・・。
──むろん、ふつうの人間なのだ。しかし、同時に、その者がそこにいるだけで瑞祥がもたらされるような、そしてある瞬間には、人々をより高みへと導く役割を果たす先導者のような者でもあって・・・・・本人が目覚めている、いないに関わらずな。
──けど、アホでもいいんだ・・・・・・。
豊のみ、がっくりとする中、
──相性というものはある。
突然、また和魂の神が言った。
──いくら竜=守宿でも、幸福をもたらす者ともたらされる者のあいだに相性はある。守宿より幸福をもたらされる者は、その代わりとして守宿を守る。土地にも相性がある。守宿がいることで栄える場所もあるのだが。
──?????
豊にはさっぱりわからない。
二千年を生きる神々の総帥は、なにを考えているのか見当もつかない。
──ともかく、その相関関係がいにしえより、まれに見るほどうまく成り立っているのが、この国の相生の里であり、不二一族なのだ。
真白き神人の総帥は結論を述べた。
──おまえも自分でわかっているだろう。不二一族の気脈は輪を描き、すなわち和を為し、すべて互いの気脈へと帰着している。そこには一点の淀みもない・・・・・・。
和楽の神は、守宿御統の名をもって穏やかに告げた。
──豊よ、我と邂逅してこの里に落ち着け。この国は戦乱の世紀を越えてなお混迷し、守宿なしでは立ち行かん。しかしながら、おまえが今ここで我と契りを結ぶならば、これより先、我ら神人がおまえの率いる人の子と対峙するときは、礼を尽くしておまえたちの配下として瑞祥を働くことを約束しよう。大神と守宿御統との契約が、この国の栄えをとこしえに守るのだ──それで相性が合う。
さすがに豊は、かなり疲れた表情で和魂の神を見た。神と人との相性というのは、昔からかなりとことんなものなのかもしれない。
──とかなんとか言っておきながら、実は口説きの理由にしてるとかっていうんじゃないだろうな!
──ふふふ。
神人はほほ笑んだまま、それには答えない。
そして、しなやかな手をかかげ、岩肌にまとわりついている蔓を示した。
その途端、さぁぁぁぁと細い蔓が豊の足元から身体の線に沿って舐めるがごとく這いのぼり、着物の襟をかきわけて、そのうなじにすうっと触れてきた。
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ゆんゆんて・・・・・龍の子、太郎なの?
本日のタイトルは●契約●といたしました。
この契約にも、礼金敷金やら、二年ごとの更新とかあったりして。
駅から三分! とか・・・・・(←じゃなくって)。
明日は●竜と鳳凰●です。
本当は●竜VS鳳凰●としたいのですが・・・・あまりにふざけているので自粛いたします。
鳳凰って、あの人が?!
そうそう、神さま。お名前は・・・・?
お名前を、ください。
大晦日の格闘番組も箱根駅伝も終わったことだし──タイムスリップして、全日本ワビサビ対決、応援しにきて。
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