2009/06/12(金)07:05
本屋大賞2009掲載v
「犬下がり」痕
役割を終えた後は、人間や資材があやまって落下するのを防止するため、瓦礫を積んで穴を封鎖してある
■第二十五章 水神■
本日は一緒に企画してくださった透子さんと、現在を頑張る旭陽さんに捧ぐ、
『ヒロの留学日記』を三部に分けて掲載させていただこうかと考えていたのですが、突発的にふたつの報をいただいたので、勝手ながらこちらを優先させていただきます。まずは吉報から、
【本屋大賞2009に掲載されましたv】
本屋大賞(2009)
皆さま、どうぞご一緒に喜んでください!
楓が連れてきてくれたお友達からのお便りによると、2009年度版『本屋大賞』の「もういちど推薦! 発掘本」コーナーに『青木学院物語』がv
今、私は思わず楓と互いに手を取り合ってしまったかのような、嬉しさと気恥ずかしさで胸がいっぱいになっています。この方に出会えたこと自体が楓からの贈り物であることを、はっきりと確信した瞬間でもありました。
貴重な情報を本当にありがとうございました!
本屋大賞2007に載せていただいてから二年。
さらに応援してくださる方がいらっしゃることに感激しています。
どうか皆さまもよろしければ本屋さんで確認していただければ嬉しいです☆
さて、本日はもうひとつ、ぜひお話しさせていただきたいことを─
【天才前衛学者の残像】
カラヤンがクラシックを殺した
艶やかなオールバックの髪を首の後ろで束ね、アルマーニのカラースーツのはだけた胸元には北斉時代の菩薩のごとく貴石が幾重にも輝き、手には女性器と蛙というエロスとタナトスを如実にあらわす装飾がなされたステッキを携えて彼は現れる。JRの電車内にも、子供らの遊ぶ公園にも。ちなみに、専らの移動手段はフォードのクラシックカーだったけれど。
先週末、私はオットからこの方の訃報を、茫然としながら聞いていました。
今をさかのぼること一ヶ月も経たない4月下旬のこと、家族ぐるみで都内の公園にてピクニックなどをご一緒した人です。というか、ご本人はオットが学生時代から仲良くしていた、実に尊敬すべき先輩でした。
二十年来の友人であるオットが悲しんでいないので、私も嘆くまい。
オットには“あいさつ”があったらしく、「あのヒトらしー」と、のほほんとひとりごちているのを横目にしつつ、だが私はかの人のことを今回の更新で取り上げずにはいられません。
本を出した以上、その内容に関する賛否両論はあって当然あってしかるべきなので、皆さまもぜひ、このリスキーなタイトルの本を手に取っていただければと思います。
去年末の新刊当時、どの本屋さんでも、平積みどころか二列三列の平積みになっていた話題の本です。
鎌倉に建つ、ラピスラズリ色の壁に金の縁取りの邸宅。
その一角の書斎の扉は、ロダンの「地獄の門」のレプリカとなっており、来客は以下のダンテの神曲による銘文に迎えられます。
Per me si va ne la città dolente,
per me si va ne l'etterno dolore,
per me si va tra la perduta gente.
Giustizia mosse il mio alto fattore;
fecemi la divina podestate,
la somma sapïenza e 'l primo amore.
Dinanzi a me non fuor cose create
se non etterne, e io etterno duro.
Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate'
我を過ぐれば憂ひの都あり、
我を過ぐれば永遠の苦患あり、
我を過ぐれば滅亡の民あり
義は尊きわが造り主を動かし、
聖なる威力、比類なき智慧、
第一の愛我を造れり
永遠の物のほか物として我よりさきに
造られしはなし、しかしてわれ永遠に立つ、
汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ
書斎の中には賽の河原のように積み上げられた石の数々。かの人は石のコレクターでもありました。
天寿をまっとうする──とよく言われますが、神の定めた寿命までもを自らの意志で決定しようとしたその神をも畏れぬ挑戦的な態度こそ、奇行をもって世界にその名を轟かせる、実にかの人らしい生き様でありました。
とはいえ、素顔の宮下誠さんは、外見上は妖気ぎらぎらではありながら、心は穏やかで優しく、私のような小娘が隣席しても面倒な顔ひとつせず、相手が誰であろうが「今この時の会話を楽しむ」というスタンスを何時間でも保つことのできる、はるかな余裕のある方でした。
京大進学を嘱望されるかの人のご子息もまた、私の心を放さない魅力にあふれた少年です。
どんなふうに魅力的なのかというと─
お父上に似て、髪の毛をびみょ~に長くしているのも私としてはかなり好ましいけれど(笑)、その言動がまた素晴らしい。
ピクニックの折、公園に着くまでの相当長い距離を恥ずかしがることもなくすすんで小学一年生のわが娘の手を取り、リードしてくれたお兄ちゃん。
そっとふたりの会話に耳をすませば…
「みのりちゃんさぁ、学校で嫌いな先生っている?」
ズルッ! 夫婦して吉本のようにずっこけそうになりました☆
入学したばかりの娘に、「学校楽しい?」などといったちやほやとした赤ちゃん的会話を求めなかった君は最高だ!
娘は今、毎晩お兄ちゃんと、お兄ちゃんのパパのためにお祈りをしています。
ご子息と奥様のことは、宮下誠氏のご著書の謝辞に記してあります。
奥様は私の「悪友」でもあるので──今、私は何をしたらいいのかを自問しています。
先日、令夫人は開口一番、「今日のファッションのテーマは“蝉”」
「蝉ですか? 禅ではなくて?」
「よく見て! 蝉よ蝉!」
たしかに、その衣装は本当に「蝉」だった…(背中から翅が生えてた)
このご家族、前置きなしに揃っていつも奇々怪々な風貌で現れるのだ。
とはいえ、絶品のカルボナーラをお作りになる令夫人もまた、夫である稀代の前衛学者にこよなく愛された人でした。
しばらくはそっと祈りを捧げるのみ。
世間の冷笑にさらされつつ、男どもは机上に旅し、迷宮を作る。
宮下誠は、おそらくケーゲルのアルビノーニ『アダージョ』とともに旅立った。
私たちも、しばらくは強く生きていこうと思う。
吉報と訃報。
宮下さんもまた、実に深く人生について教えてくれる人です。
私の小さな物語も、愛してくれた人でした。
今、吉報を喜んでくれていることでしょう。
どうぞ皆さまもこのご家族に心を合わせていただければさいわいです。
水、為政者、そして神までも敵にまわして、まだこれからも戦うだろうか─
■第二十五章 水神■
◆応援ありがとうございます!
次回更新は6月15日(月)●水車●です。
現在、箱根用水を動力とする水力発電所は三基を数えます。 6月12日、草原のパチリス弁当v 6月11日、ペンギンの双子ちゃんの魚つりv 6月10日、炎のように元気いっぱい!ヒコザルv(←英) 6月8日、みのり『青木学院物語』読了記念、楓弁v
黒く渦巻き、世界がざわざわと泡立った私たちの週末を救ったのは、娘の授業参観でした。
入学式以来の「きっちり」感で行なわれるのかと、夫婦ふたり、ビビリながら赴いたところ──
国語の授業などは思いっきり「みんなでダジャレを考えよう!」でした(笑)。
おとなしいはずのみのりが、「はいはいはーいっ」と大興奮で授業に参加していた…;
「○かつ先生(←担任の先生の姓)かつどんを食べる」
前回の習字といい、おまえはどんだけ「かつどん」が好きなんだ!!!
宮下先生ならば「センスあるね~」と言ってくれそうなので、泣きたいほどの話題の後にこのエピソードを入れさせていただきました。
それにしても最近の授業参観って、朝から下校まで、つまりお昼をはさんで五時間目までの長丁場なのね~
◆お弁当の画像は、順次こちらのアルバムに収めてあります☆
よろしかったらぜひ遊びにきてください^^